体育祭は無事に終わり、(私は結局負けた。)あれだけ張り切っていた学校全体も通常授業に戻り、熱は一気に下がった。
「結局、深瀬さんのクラスが勝ったんですよね?」
「そうね。個人的には、市ノ瀬ちゃんのクラスが勝ってほしかった…。」
放課後の図書室で、私と深瀬さんはプチデートをしていた。
「私は深瀬さんのクラスが勝って嬉しかったですし、勝ち負けとか関係無しに、走ってる深瀬さんが見れて私は満足です…!」
「市ノ瀬ちゃん…。ありがとう。好きよ。」
「し、知ってます…。」
深瀬さんはなぜか満足そうだ。
そういうことさらっと言うから困るんだよなぁ〜…
「そういえば市ノ瀬ちゃん、市ノ瀬ちゃんのクラスは大丈夫なの?」
「何がですか?」
「中間テスト。」
その瞬間、私の体に衝撃が走る。急いでカレンダーを確認すると、3週間後には赤い文字で中間テストと書いてあった。
「ま、まじ…か…。」
私は勉強はそこそこできるほうだった。そう、だった。だ。
無事高校に入学できて、体育祭も盛り上がっていたので浮かれてしまっていた。
定期テストがあることをすっかり忘れてしまっていたのだ。
「い、市ノ瀬ちゃん…?大丈夫?」
カレンダーを見つめたまま固まっている私を心配そうにうかがう。
「早くないですか…?」
「そうね…。だから、去年私も焦ってた記憶があるわ。早めに伝えられて良かった。」
「ま、まじか〜…」
私がへたれこんでいると、深瀬さんは静かに机のうえに一冊のノートを置いた。
「…?なんですか?」
「その…余計なお世話かもしれないけど、去年のテスト範囲ノートが見つかったから、役に立つかと思って…。できるだけわかりやすくまとめてるつもりだから。」
私はしばらく固まる。
この日初めて天使を見た気がした。
私は勢いよく深瀬さんの手を握りしめ、「この御恩は一生忘れません…!必ず恩を返させてください…!」と叫んだ。
「い、市ノ瀬ちゃん…ここ図書室…」
「私、頑張って勉強しますね!よーしっ、今日はずっと勉強だぁー!」
あれから図書室をあとにした私たちは、もうほぼ日が暮れかかっている道を一緒に歩いていた。
「そうね。私もできるだけ協力するから。」
「いや、大丈夫です!」
「え?」
「私のせいで深瀬さんの成績が落ちるのは嫌ですから!なので、深瀬さんは深瀬さんで、勉強に集中してもらって大丈夫です。」
そう言って笑って見せたが、深瀬さんはなぜか浮かない顔をした。
「…わかったわ。ありがとう。」
深瀬さんの隣にいても恥ずかしくないように、頑張らなければ。
そう決心した。