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桃源郷。
誰だって幸せに暮らせる場所。
世界は滅んだ。
世界が滅んでもそんな場所があるなら…
僕らで、そこに行きたい。
そしてその向こうへ行って
みんなに会いたい
「…っ」
僕は痛みで目を覚ました。
(何があったっけ…)
…確か、と記憶を掘り起こす。
(世界を…この世界全体を破壊しようとしているニンゲンが来て…瓶をすべて割られた上にナイフで切られたんだったかな…)
僕が塵にならないのは…ソウルレスだから。
地面に手をついて体を起こす。
傷が見える。
「うん?インク?」
あれ…
「エラー、どうしたの?君がここに来るなんて珍しい」
「ついさっきニンゲンが来て戦ったからな。お前も戦ったんじゃないかと」
「ん?じゃあ君どうして生きてるの」
「まるで死んでいて欲しかったような言い方だな?」
「あはは、そんなことないよ、気になっただけ」
「そうか?ニンゲンを送り込んでたんだよ。エラー画面に」
「君そんなことできたんだね」
「出来るわ」
そんな会話をしつつ辺りを見回す。
紙がいつものように散らばっているだけ。特にこれと言って変わったことはない。
ただ、戦った形跡があるのでここで戦闘を行ったのは事実だろう。
その時、
「お、二人ともお揃いで?」
僕とエラーが顔を向けるとそれはにやっと笑った。
「ナイトメア?」
「そうさ。あの闇の帝」
「タコだったよな?」
「…」
「怒らないでナイトメア~平和平和」
「ドリームみたいなこと言うな」
そしてナイトメアは僕とエラーの目の前に座った。
「聞くか?あのニンゲンのこと」
いたって真剣な様子でナイトメアは言った。
静かにうなずきを返す。
「わかった、話してやる。あのあとエラーと戦闘を終えたあのニンゲンは、やることが無くなったかのようにこの世界を出た。好き放題暴れて満足でもしたんだろうな。この世界に残ったのはこの俺ら三人だけだ。」
僕は聞き返す、
「え、“この世界に”三人?“ここに”三人なんじゃなくて?」
「ちゃんと“この世界に”三人だ。密かに生きてる奴も居るかもしれないけどな」
「嘘はないか?」
「ないぞ。ニンゲンが世界を出ていったことも、この世界に残ったのはこの俺ら三人だけだってこともな」
「…」
「なあ、」
そこでナイトメアはこんなことを言った。
「お前らは、“桃源郷”ってのに興味はないか?」
「トウゲンキョウ?」
エラーが返す。
「本でも読もうかと思ってドリームのとこ行ったんだよ」
「うん」
「そしたら桃源郷ってのが書いてある本見つけて読んだんだよ。」
「それで?」
「桃源郷は桃の源の郷って書いて桃源郷って読むんだってな。それが誰だって幸せに暮らせる場所らしい。」
「あー、知ってるかも」
「お、そうか?」
「クリエイター達の世界の言い伝えだよね?」
「そうだったんだな」
「んで、そこに行こうって話か?」
「そうだな。」
「桃源郷のその向こうに行けばみんなに会えるんだって…」
「…そうだな。そう言う話だ」
「行こっか、みんなに会いたいし」
「ああ。そうしようか」
「桃源郷ってどこにあるんだろ」
「世界の果てとかか?」
「言い伝えだしありそうかも?」
こんなに広い世界でも、終わるときは一瞬で。
まるで夢から覚めるような…
世界は果てない、
そう思っていたけど。
「あ、昔ここの…スワップ、誘拐したよな」
突然、エラーがそんなことを言った。
「懐かしいね」
僕はそう返し、エラーと同じ方向を見る。
「誘拐も…日が経てば良い思い出になるんだな」
ナイトメアも足を止めた。
世界は荒れ果て終焉を迎えてもなお夕日が綺麗に見える、バリア壊したてのアンダースワップ。
三人で少し黙って眺めたあと、ナイトメアがくるりとパーカーをひるがえし歩いていく。
僕らは顔を見合わせたあと、その背中を追った。
様々なAUが出ては消えて。生き物の一生のように。
僕がそれらを通り過ぎていって、横目に見える風景がそのように感じた。
エラーのマフラーが風を孕んでぱたぱたと音をたてる。
足にわずかな痛みを覚え、立ち止まる。
「ねえ」
前を行く二人に呼び掛ける。
「どうした?」
「なんだ?」
二人が振り返る。
何故かその光景が、僕はとても嬉しく感じた。
「そろそろ疲れたから休も?」
「そうだな。ここらで休んどこうぜ?」
「賛成だな」
再び僕らは歩きだした。
見たこともない、幸せな桃源郷へ。