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勇者と神官

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勇者と神官

10 - エピローグ:陽だまりの中で

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2025年05月19日

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小さな村の朝は、ゆっくりと始まる。木々の間をくぐった光が、石畳の道を照らし、軒先の花が風に揺れていた。

あの戦いから幾年。

すべては、静かに、ただ日々を重ねている。


「……おーい、パンが焦げるよ」


台所から、くすくすとした声が響く。

神官が手にしたフライパンの中で、トーストがしっとりと焼き上がっていた。


「いや、焦げてない。これは“香ばしい”って言うんだよ」


奥から勇者の声が返ってくる。

昔のような威圧感や気負いは、そこにはない。

少しだけ肩の力が抜けた、どこにでもいる青年の声だった。


ふたりで住んでいるのは、始まりの村――彼らが旅立った場所。

もう冒険者でも、勇者でも、神官でもない。

ただの“ーーとーー”として、この土地に根を張っていた。


勇者は、畑の手入れを終えて戻ってくると、

神官が用意した朝食を二人分並べて、対面に座る。


「今日は村の子どもたちに、ちょっとだけ回復魔法を教えるんだ」

「それから教会の修繕。手伝ってくれるでしょ?」


「はいはい、がんばりますよ、神官さま」


そんな他愛もない会話の中に、いくつもの“願い”が詰まっている。

一緒にいること。何気ない朝を過ごすこと。

そして、もう二度と触れることを恐れなくていい日々。


ふと、勇者が言う。


「なあ……こうして、朝の光の中にいると……あの時、俺が目指していた“太陽の方角”って……お前だったんじゃないかって思うんだ」



神官は少し驚いたように目を見開き、それから微笑んだ。


「 それは光栄だな」

神官は静かに勇者の手を取る。

暖かく、どこまでも人間らしい手だった。


「……これからもずっと、光でいてくれよ。 お前の光で、俺は……人でいられる気がするから」


もう、その手は何も壊さない。

あたたかく、確かに、ふたりを繋いでいた。


外では小鳥が鳴き、村の子どもたちの笑い声が遠くに響く。

世界は変わり続ける。

それでも、この小さな光景だけは――きっと、変わらずに在り続ける。


彼らが何よりも願った「ふつうの朝」が、ここにあった。

灰の記憶を越えて、ふたりは今、ようやく“生きて”いる。

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