Side黄
「なあきょも、ちょっと膝枕させて」
「いいよ」
樹が大我の膝に頭を乗せて寝ようとしている。そんな甘々すぎるシーンが、楽屋のソファーで繰り広げられている。
俺はつい目を背けた。
2人は恋人。それは俺を含めた4人も知っている事実。
でも俺は大我のことが好き。それは誰も知らない事実。
「俺ら、付き合ってるんだよね」
そう言われた日から、樹も大我も面と向かって話せなくなった。
大我への憧憬、樹への嫉妬。
どちらも大事なメンバーなのにそんな感情を抱いてしまう自分が、嫌になった。
「高地、何黙ってんの?」
俺が難しい顔で考え事をしていたからか、隣の北斗が声を掛けてきた。
その何でもないようなトーンとは裏腹に、表情は真剣だ。
「いや…大丈夫」
安心させようとしたのに、曖昧な返事になってしまった。
「ほんと?」
うん、とうなずく。
頭脳明晰な北斗のことだから見透かされたかもしれない、と不安になる。
しかし「こーちー!」と大きな声でジェシーに呼ばれ、現実に引き戻された。
ジェシーなら、俺が「好き」って言ったら喜んでくっついてくるだろうか。でも残念ながら言いたい相手ではない。
ジェシーは嬉しそうに最近行った好きなアーティストのライブの話をしているが、正直あまり頭に入ってこない。
「ね、今度ライブ一緒に行こうよ」
「ん? あ、ああ」
適当に返事をし、所在なさげにスマホを開く。
こんなことをしていたら、いずれジェシーにも嫌われそうだ。
はあ、と大きくため息をつく。北斗が訝しげな顔を向けたのを、視界の隅で捉えた。
これは完全にうつつを抜かしてメンバーに迷惑をかけている。気持ちには気づかれていないにしろ、心配されているのは間違いない。
とにかく諦めよう、と決めた。
『高地、どっか夜空いてない? 2人で飲みにでも行きたい』
夕方家に帰ったとき、そんなメールが届いた。その送り主を見て、飛び上がりそうなほど驚いた。
大我だった。
動悸かと思うくらいに突然速くなる鼓動。胸を押さえ、しっかりと画面を確認する。
しかし何回見ても、大我とのラインに送られているのは飲みに行くお誘い。しかも2人。「きり」かはわからないが、もしかしたら本当に2人だけなのかもしれない。
でも、いざ顔を見て話すとなるときっと真っ白になる。ずっと慕い続けている人。いつからか好意を持っている人だから。
だけどこの煮え切らない想いを断ち切るには、格好のチャンスだ。思い切って言ってみて、断られるだけだ。
大我には樹という特別な人がいるから、当たり前のこと。
そうしたらすっきりできる気がして。
時間は今週末をリクエストし、スマホを閉じた。
まだ心臓のドキドキはおさまらなかった。
続く
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