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ハイキュー夢小説『ずっと好きなのに、私じゃないんだね』
第3話 —「画面越しの君」
そして、夜。
お風呂も入って、明日の準備も終わって、ベッドに寝転がった私は、なんとなくインスタを開いた。
……及川さん、今何してるんだろ。
考えないようにしても、結局考えてしまう。
彼女さんと電話してるのかな。
それとも、もう寝ちゃったかな。
「……はぁ、ほんと嫌になる」
好きって、こんなに苦しいんだ。
私は気を紛らわせるために、インスタライブを始めた。
『こんばんは〜!』
画面に向かって手を振る。
最初は数人だった視聴者も、少しずつ増えていく。
『え、配信してるの!?』
『待ってた!』
『今日もかわいい〜!』
「えー、ありがとう! みんな何してたの?」
コメントを読みながら、他愛もない話をする。
学校のこと。
好きな食べ物のこと。
明日の予定のこと。
普段通りに笑って、普段通りに話して。
そうしていたら、少しずつ気持ちも落ち着いてきた。
『今日なんかあった?』
そのコメントに、思わず指が止まる。
「……え?」
『ちょっと元気なくない?』
『なんかあったでしょー!』
「えー? そんなことないよ?」
笑ってごまかす。
「普通に元気だよ! ちょっと眠いだけ!」
本当は、全然平気じゃない。
でも、みんなに心配をかけたくなかった。
すると。
画面の上に、見覚えのある名前が表示された。
及川徹さんがライブに参加しました。
「…………え?」
息が止まった。
え、待って。
及川さん?
なんで?
なんで今、ここにいるの!?
心臓がうるさい。
さっきまで普通に話せていたのに、急に何を話せばいいのかわからなくなった。
『え!? 及川さん!?』
『及川徹ってあの及川さん!?』
『知り合いなの!?』
コメントが一気に流れ始める。
「え、あ、うん……知り合い、だけど……」
声が裏返りそうになる。
お願いだから、今は来ないでほしかった。
だって、今日あんなことがあったばかりなのに。
私の気持ちを知ってしまった人なのに。
画面越しにだって、まともに顔を見られない。
すると、コメント欄に。
及川徹:なにしてんの?笑
……っ。
「えっと、インスタライブ……?」
自分でも何を言っているのかわからない。
『見ればわかる笑』
『及川さんとの会話おもろい』
『仲いいんだね!』
及川さんは、さらにコメントを送ってきた。
及川徹:今日、松川と何話してたの?
「…………え?」
思わず固まった。
いや、そこ?
今、聞くことそれなの?
『松川!?』
『まっつんとも仲いいの!?』
『モテモテじゃん笑』
「いや、普通に学校の話だよ! 先生に頼まれた資料を届けに行ったら、たまたま会っただけ!」
慌てて説明する。
すると、すぐに。
及川徹:ふーん?
……何、その反応。
今日も聞いた、その言い方。
画面の向こうにいるだけなのに、目の前で拗ねている及川さんが想像できてしまう。
「……及川さん、何?笑」
なるべくいつも通りに聞いてみた。
及川徹:別に?
及川徹:仲よさそうだったからさー
「……っ」
やめて。
そんなこと言わないで。
期待しちゃうから。
あなたには彼女がいるのに。
『え、及川さん嫉妬?笑』
『これは嫉妬してるだろw』
『及川さん、彼女いるんじゃなかった?』
そのコメントが流れた瞬間。
私は思わず画面を見つめた。
……そうだよ。
彼女、いるじゃん。
今日、あんなに嬉しそうに話してたじゃん。
「……ふふっ、及川さん、彼女さんに怒られちゃうよ?笑」
冗談っぽく言った。
本当は、少しだけ胸が痛かった。
すると。
及川徹:なんで?
「え?」
及川徹:俺が誰と話そうが、別によくない?
……そうだね。
私だって、誰と話したっていいはずだよね。
なのに、及川さんは私が松川くんと話していたことを気にしている。
どうして?
「……まあ、そうだけど」
小さく笑って、コメントを読み始めようとした。
そのとき。
及川徹:てかさ。
及川徹:○○、今日泣いた?
…………。
一瞬、何も聞こえなくなった。
コメント欄も、急にざわつき始める。
『え?』
『泣いたの?』
『及川さん、どういうこと?』
私は必死に笑顔を作った。
「……えー? 泣いてないよ?」
及川徹:嘘つけ笑
及川徹:目、赤かったじゃん
……見てたんだ。
今日、体育館で。
私が必死に隠していたこと。
気づいていたんだ。
「……っ、もう、そういうこと言わないでよ」
思わず、小さく笑ってしまった。
泣きそうだったから。
すると、及川さんから、もう一つコメントが届いた。
及川徹:……俺のせい?
指が止まった。
画面に映る自分の顔が、少しずつ歪んでいく。
違うよ。
及川さんのせいじゃない。
私が勝手に好きになっただけ。
あなたは、何も悪くない。
「…………」
何も言えなくなった私を見て、コメント欄には心配する言葉が流れていく。
そして、及川さんが。
及川徹:……ごめん。
たった一言。
それだけだった。
なのに、涙がこぼれそうになった。
謝らないでよ。
優しくしないでよ。
そんなことされたら、また好きになっちゃうじゃん。
もう、とっくに大好きなのに。
「……及川さん」
私はカメラに向かって笑った。
「……謝らないで。私が勝手に好きなだけだから」
言った瞬間、コメント欄が止まったように感じた。
あ。
……言っちゃった。
ライブなのに。
みんなが見ているのに。
でも、もう取り消せなかった。
及川さんからのコメントも、しばらく来なかった。
数秒後。
及川徹:……そっか。
たった、それだけ。
そして次の瞬間。
及川徹さんがライブから退出しました。
「…………」
画面を見つめたまま、動けなかった。
『大丈夫?』
『無理しないでね』
『切ない……』
『及川さん、何考えてるんだろう』
みんなのコメントが流れていく。
私はなんとか笑って、
「……ごめんね、今日はもう終わりにするね」
そう言って、ライブを終了した。
スマホを胸に抱きしめる。
「……ばか」
涙が一粒、頬を伝った。
「及川さんの、ばか……」
好きだよ。
今も、どうしようもないくらい。
でもね。
好きだからこそ、もう期待したくないんだよ。
彼女がいるあなたに、これ以上優しくされたら。
私、本当に諦められなくなっちゃうから。
その頃、及川徹は。
自分の部屋で、スマホを握りしめていた。
画面には、さっきまで見ていたインスタライブの終了画面。
「…………勝手に、か」
小さく呟く。
『私が勝手に好きなだけだから』
何度も、その言葉が頭の中で繰り返される。
「……なんで、そんなこと言うかな」
彼女ができた。
それは本当だ。
好きだと言ってくれた女の子と付き合い始めたのも、本当。
なのに。
今日、松川と笑っている君を見たとき。
自分の知らない顔で笑っている君を見たとき。
胸の奥が、どうしようもなくざわついた。
そして、君がライブで笑っていたとき。
自分以外の誰かに、楽しそうに話しかけていたとき。
……嫌だった。
「……俺、何やってんだろ」
彼女がいるくせに。
君の気持ちを知って、嬉しいなんて思ってしまった。
いや。
嬉しい、だけじゃない。
ずっと自分の隣にいると思っていた君が、遠くに行ってしまいそうで。
怖かった。
及川はスマホを開き、君のプロフィールを表示した。
DMを送ろうとして、指が止まる。
『さっきはごめん』
違う。
『泣かないで』
そんなこと、言える立場じゃない。
『俺も好きだよ』
…………。
「……っ、何考えてんの、俺」
そんなことを言ったら、君をもっと傷つける。
自分の気持ちすら、まだわからないのに。
及川はスマホを伏せて、ベッドに倒れ込んだ。
けれど。
目を閉じても、浮かんでくるのは君の泣きそうな笑顔ばかりだった。
「……ねえ、○○」
誰もいない部屋で、及川は小さく呟いた。
「俺のこと、そんなに好きだったの……?」
その答えを、今さら知ってしまった。
そして初めて。
君を失うことが、怖いと思った。
——つづく。 ♡
コメント
1件
第3話、読み終えました……! インスタライブで及川さんが突然現れたシーン、心臓が止まるかと思いました。あの「目、赤かったじゃん」って、ちゃんと見てたんだって伝わってきて、胸がきゅっとなりました。最後の「……そっか」で退出するところも、及川さんなりに何か考えてるんだろうなって感じられて切なかったです。そして最後の及川さん視点で「失うことが怖い」って思ってるのが分かって……もう、次が気になって仕方ないです💦 続き、楽しみに待ってますね🌸