「私も彼女の言ったことに同意です。津久野さんって、会社ではモテないんですか?」
「どう思います?」
意味深な視線を飛ばされたせいで、怯みそうになる。
「質問を質問で返さないでください」
「俺と食事してくれたら、そこのところもまじえて、詳しく教えてあげます。それじゃあ」
印象的に映る瞳を嬉しげに細めて去っていく後ろ姿に、思わずアッカンベーをした。
「先輩、あの人相当のやり手ですよ。気をつけた方がいいです」
三浦さんは私から奪った名刺を返しながら、ウンザリした顔で話しかける。
「要注意人物ね。話しかけられたら、今のように対処しましょう」
こうしてふたりでタッグを組み、厄介なお客様に対応していたのだけれど。
「高田さん、こんにちは。よかったらこれ、休憩時間にふたりで食べて」
数日後、宣言通りに部下を連れた津久野さんが受付に顔を出し、小さな小箱をカウンターに置いて、さっさと会社の中に入って行く。その間、わずか数秒だったせいで、こちらから返事ができなかった。
「先輩見ました?」
「なにが?」
「津久野課長が連れてた部下ですよぉ。結構タイプかも」
三浦さんの話を聞きながら、カウンターに置かれた小箱を手に取る。それは誰もが知る、有名店のクッキーの詰め合わせだった。
「女子受けしそうなお菓子ですね、それ」
「うん。勝手に置いていったとはいえ、お礼を言わなきゃいけない」
相当なやり手である彼の手腕に、このときゲッソリした。だってお礼と称して、私から声をかけることになる。進んで接触したいと思える相手じゃないのに。
「先輩、出てきましたよ」
頼まれていた仕事をこなしていたら、三浦さんが打ち合わせから出てきた彼らを見つけてくれた。慌てて立ち上がり、津久野課長に声をかけようとしたら、彼はこちらを一瞥し、小さく頭を下げて去って行く。急いで帰社しなければならない事情があるのだろう。
「次に来たとき、挨拶しなきゃ……」
津久野課長がいつ会社に来るのかわからない以上、こちらから声をかけなければいけないことが、微妙に私のストレスになったのだった。
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