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ーズキンΣ(>_<) 『痛ったっ…。』
紫苑は痛みと格闘していた。
痛みの感覚が徐々に短くなっている。
担当医師からは
【あまり痛みに耐えるのは
身体の負担を考えると良くないので
酷くなる前に受診するように】
と言われていたが
生活の為にも仕事を休む訳にもいかず、
職場で痛み止めを飲むしか対処法が無かった。
《紫苑、また?》
職場の仲間の紗季が声をかける。
偏頭痛持ちなのは知っている友人の1人だ。
『あ…うん。多分明日は雨だね。』
《紫苑の雨予報外れたことないもんね(笑)》
『あんまり嬉しくないよ。
雨はホントは嫌いじゃないんだけど。
最近偏頭痛強くなってきてツライ(´;ω;`)』
《季節の変わり目だからかな?
空気も乾燥してきたから
雨降ってくれるのは
有難いことなんだろうけど
頭痛いのは辛いね。
少し長めに休憩取っていいよ。
師長には私から伝えとくから》
紗季はお大事にといって休憩室を出ていった。
紗季と紫苑は中堅クラスの病院に務める看護師。
受け持ちの患者は最後を待つ看取りの
患者が多いものの、比較的安定して
職務をこなせていた。
薬が効いてきたのか少し痛みから解放され、
休憩から戻ってステーションへ歩いていくと、
以前お世話になったコーディネーターの
山際隼人が紫苑を尋ねて訪れていたのだ。
『や、まぎわさん?』突然の訪問に
驚きを隠せない。
《紫苑ちゃん久しぶり!…あれ?
顔色悪いねぇ。ちゃんと食べてる?》
軽いトーンで話す山際は
医療コーディネーターとして多くの患者の
手助けをしつつ、互い趣味の音楽の話で
盛り上がり親交を深めたこともあり、
手術でアメリカに渡る際も
気兼ねなく共に過ごした間柄だった。
『あ…はい。でも山際さん突然、職場まで
いらっしゃるなんて、どうしたんですか?』
《今日何時に終わる?少し時間取れないかな?》
『16時までです。その後1時間くらいなら。』
《OK!分かった。じゃあその頃
またここに迎えに行くよ。》
『分かりました。』
《すみません。お邪魔しました!》
ステーションの皆に軽く会釈をし、
立ち去っていく。
ちょっと、あの人だれ?!スタッフ一同
容姿の整った山際の来訪に色めき立つ。
『手術の時にお世話になった
コーディネーターさんですよ。』
紫苑はカルテを片付けながら、
次の患者の準備を始める。
(皆 この手の話 ホント好きだよね?
付き合ってんの?とか聞いてくるんでしょ?
面倒くさ…。何でもないんだけど)
【紫苑さん、頭痛少し治まったかしら?】
師長の佐藤が声をかけてきた。
『師長、ご迷惑おかけしてすみません。
薬が効いてきたようで少し楽になりました。』
【無理は禁物よ。医者の不養生なんて
言葉が有るけど看護師も大して
変わらないんだから。
山際さん紫苑さんのこと気にかけてたわよ。
今日は少し早めにあがりなさいね。】
佐藤が色めき立つ皆を一瞥すると、
それぞれがサーっと引いて
持ち場に戻っていく。
『お先に失礼します。』
お疲れ様!
皆が手を振り紫苑を見送る。
皆に挨拶をし職場を後にする。
(山際さん なんの用だろう?
ずっと連絡取ってなかったのに…。)
《紫苑ちゃん!早かったね!お疲れ様!》
車から手を振り、山際が車から降りてくる。
『師長が少し早めに上がらせてくれて。』
《家の近くまで行こう!お腹は?》
『いえ、まだ早いので大丈夫です。』
《じゃ、甘いものでも食べようか。》
さり気ないエスコートで車に乗り込む。
その場面をある男が目撃していたが
紫苑は知る由もない。
10分ほど走った後、大通りに面した静かな
珈琲店で二人は向き合っていた。
《紫苑ちゃん、歌出さない?》
山際の突拍子も無い提案に固まってしまう。
《実はさ、こないだコーディネーターで、
あるプロデューサのお世話をした時に
紫苑ちゃんの歌声を聞かれちゃったんだよね。
ほら、前にアメリカ行く前に路上で
歌ってた映像あったでしょ?
あれを見て是非会わせて欲しいって
懇願されちゃってさ。》
……驚いて言葉も出ないとはこの事か…。
目の前にあるカフェラテに口をつけ
動揺を抑える。
『山際さん、歌は …好きです。
…でも好きで自分の為に歌っているだけで
世の中に発表するとか、
デビューとか考えられない。』
《それだけが理由?…なんか違う気が
するんだけどなぁ。》
観察眼の鋭い山際は紫苑を見つめる。
『(そうだ、この人そういう人だった…)
理由は他にもありますが、仮に歌出したとしても
生活をしていけるほど
そんな甘い世界じゃない事知ってますから。
私より上手い人なんてゴロゴロ居ますし。』
《まぁ、俺には良く分かんないけどね。
あ、来た!こっちこっち!
あれ?もう一人いる?あの人は…。》
顔を上げると中年の男性と蓮の姿が目に映る。
(えっ…蓮?なんで?)
〘初めまして、西園寺です。
今日は突然のお呼び出しなのに
来ていただいてありがとう。
たまたまそこで私がお世話してる
目黒くんに会ってね、彼有名でしょ?
口説いてもらおうって連れてきた。〙
「どうも。SnowManの目黒蓮です。」
《医療コーディネーターの山際です。
彼女は紫苑ちゃん。いい声なんだよ。》
「(知ってる。でも知らないフリした方が
きっといいんだろうな…)でも西園寺さんが
口説きたいなんてびっくりです。
珍しくないですか?そんなこと言うの。」
〘最近はコンテンツばっかりやってるから
プロデュースはね。でもこの声を聞いた時から
耳にずっと残ってて私はこの声を
世の中に出したいって本気で思ったんだよ〙
《西園寺さん、結構有名な人らしくてね。
彼のプロデュースでデビューした人は
必ずヒットしてるんだよ》
「俺らもお世話になりました。
紫苑さん凄いじゃないですか。
西園寺さんに気づいて貰えるのなんて
業界でもひと握りですよ。」
蓮はこの場に呼ばれた意味を理解して
他人行儀のフリながらも、
紫苑の歌を世の中に出していきたい
という西園寺の後押しをしたかった。
紫苑は下を向いたままだった。
『そんな事…』
「えっ……?」
『私は…望んでいません。…失礼します。』
すくっと立ち上がり出口へ走っていく。
彼女は泣いていた。
(なんで?!泣くの?)
蓮は周りを気にすることなく
紫苑を追いかけて走っていた。