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#うりさん
ろのみ🩵🫧
43
19
#年上彼氏
おうか

252
「おー、本当に行くんだ」
私の買った“地球の歩き方”を見ながら吉良くんが言った。
「で? 何? 何してんの。俺まで避けて」
「だ、だってぇ」
じわっと滲む涙に、麗佳さんがハンカチを渡してくれた。
「泣くなよ、こんな所で」
吉良くんがキョロキョロしてる。
あ、確かにチャラ男が女を泣かしてる風景。
「ハジメマシテ」
「コチラコソ」
「コミュ障か、お前ら。てか、まあ、いいわ。何でだよ。……つか、分かってる。だから、逃げるな」
「ほ、他にもいるんだよ、あの人」
「あー、ちょい、麗佳。清水部長と何回か食事行ったよな」
え?麗佳さん?
……わぁ、こりゃ綺麗な人だわ。
「ええ……。知って……」
「何かあった? 」
「無いわよ」
「うん、接待。って聞いてない? あの人が麗佳口説いてた時、俺も居たし。向こうの社内でで誰かが麗佳に手出さないように牽制してくれただけだ」
居たのか。麗佳さんが「なるほど、良い人ね」などと言っていてこの人がちょっと天然なことが分かった。
「……でも……」
「話せ。逃げずに。で、梓と同じ事すんなよ。心配すんだろ」
「……ごめん……なさ」
その時
「あ、どうも」
そう言って、空いてる席に、インスタグラ……じゃなくて、二宮くんが座る。わぁ、今日も一層映え……
……え、あの……
「あー、GPSついてんの、湊の……」
「嘘!? ストーカー? 」
『皆さん』じゃなくて、『湊』になってる。
一文字しか変わらないけど。
「嘘だよ。……もう、それでもいいけど。あー、どうも。そちらの彼はこの前お会いして、あ、彼女ですか? めちゃ、綺麗ですね」
二宮くんが挨拶を交わす。
「……ああ、はい。どうも」
吉良くんの、苛立ちが伝わる。
「まあ、俺も関係なくは、ないんでね。同席させて下さい」
「どうぞ」
不穏な空気が流れた。
「今……俺と付き合ってるんですよ。彼女」
「はぁ!? 」
低い声の吉良くん、めちゃめちゃ怖い。
「ちょっと、二宮くん」
「本当の事だろ? 信じないなら、ここでちゅーでも……」
「ちょ、何言って……」
「何だよ、もう何回もしてるだろ? 」
「何回もはしてない! 」
……しまった……思わず言ってしまった。
「声、デッカ」
ああ、ヤバい。ヤバい。ヤバい。怖くてそっち見れない。
「……湊……」
「だから、そっちの人、諦めてもらえません? 」
「……」
「ああ、そうだ、ここで言っても……本人に言わないとね」
「二宮くん、いいよ、もう」
「俺が、よくないんだよ。あー、俺用事あるんで帰ります」
そう言って二宮くんは立ち上がった。え……今さっき……座ったとこ……?
何をしに……。さっぱりわからない。
「ねぇ、今度いつだっけ? 最後、会社来るの」
「来週の金曜って……」
「定時で帰るよな? 」
「まあ、メイン挨拶くらいだし」
「じゃあ、17時半には帰れるな」
「うん……まあ」
「じゃ、また連絡する。失礼します。あ、泣かせないでね。もう」
そう、吉良くんを見て言った。
彼が去ると静かになった。
まあ、つまり……いたたまれない空気。
「あの人と、キス、したの? 」
麗佳さんが、あっさり触れる。
「いや、ほら……ボーッとしてたらって言うか」
「舌入ったやつ? 」
麗佳さんが容赦なく聞く。えー、舌とか。
「1センチくらい……」
「ギリギリ……セーフね」
「いや、アウトだろ。俺、絶対嫌だけど」
「されたって言ったら? 私が」
「……う……上書き……」
吹いた。何このバカップル。
「ギリギリセーフね」
「あー、はい」
「いい人ね、彼」
「二宮くん? まあ、うん。チャラいけど」
チャラいの言葉に吉良くんが反応した。この人も相当チャラいから。
「フォロワーが多そうね」
吹いた。
「麗佳さんインスタとか? 」
「んー……せっかくだから今日のことも……匂わせ……」
「映せよ! ちゃんと!」
「冗談よ」
吉良くん、めちゃめちゃ翻弄されてるな。それに、そのことに、胸の痛みは無かった。
「湊、話せよ。ちゃんと。でないと、俺みたいになるぞ」
「バカップル? 」
「……まあ、うん……まあ」
いいな。幸せそう。良かった。
だけど、清水部長には奥さんはいるわけで……もう、別に……。
「まあ、任せるか。あっちに」
……あっち?任せる?
「湊ちゃん、その髪型、似合ってる。可愛い」
「麗佳さんも、髪上げてるのいいね」
「せっかくだからケーキ食べようかな。どう? 」
「おー、食べろ食べろ。湊も。痩せたんじゃね? 」
「海藻ばっかり食べてるからかなぁ」
「何だよ、海藻? 」
「ごめんね、吉良くん。麗佳さんも」
心配……してくれてる。でも……。
「綺麗で、性格も良くて、彼氏のいない女性も要るよね。あとちょっとの自信があればいいんだけど」
そう言う吉良くんに
「……浮気でもするの? 」
と、聞いた。
「バッカ! 」
「早かったわね」
「ちょ、麗佳……? 」
「冗談よ。湊ちゃんって、綺麗よね。本当」
「鏡! 」
鏡を見て下さい。あなたの方がよーっぽど綺麗ですから。
「ふふ、持ってないんでしょ? 貸してあげる」
「あ、どうも。っていらないけど」
「見たら? 綺麗よ、とても。愛されて当然なくらいね」
そう言って、にっこり笑う麗佳さん。何だか、また視界がぼやけて来て、せっかくの美男美女が見れなくて、もくもくと、ケーキを食べた。麗佳さんと、半分こづつして。
「だから、ここで泣くなよ~。三角関係の縺れ感~」
そう言う吉良くんに、少し、笑った。
前には泣く女。横には微笑む女。
そして、焦るチャライケメン。
……そんな、構図。
『最終日、綺麗なかっこしてきてねー』
相変わらず、たまに届く二宮くんからの謎のメッセージ。
『ああ、はい』適当に返す。
二宮くんもああ見えて、心配してくれてる。吉良くんも麗佳さんも。ありがたいな。
吉良くんはやっぱり……麗佳さんの前で梓の名前出してて、ビックリしたけど。あの人も、けっこうイタイよね。
自分、厳しいくせにっ。それも含めて……受け入れてるんだな。麗佳さん。大人だな。
過去かぁ。そうだな。私も……過去のスパイラルの中に気づかないうちに入っていたのかも。
麗佳さんの言葉が心に響く。愛されたっていいじゃないか。私も。ようやくそう思えた。
あ……まあ、二宮くんは彼なりに好きでいてくれてるんだけどな。彼とどうにかなることは考えられなかった。
彼の事は……うん、動物っぽい。自由で。勝手で、可愛い。ありがとう。救われた。彼の存在に。
あと1日。逃げきれる。私は、ケリも、話し合いも避けるつもりだった。顔を見ると、流される。だから、これがベストだ。
──何となく二宮くんのアドバイス通り、それなりにメイクも、服も気を使った。
よし!
「ん、綺麗だね」
「ああ、どうも」
「冷たいなぁ、彼氏に」
「はいはい」
「31日って言ったけど、今日でいーよ。ちゃんと、俺に別れ話してきてね」
「ああ、別れて下さい」
「ちっ、今じゃねぇわ。夜! 24時まで待つ」
意味が分からん。送別会は、もうして貰った。未だに危うい新人フォローと雑用を終えて、フロアに挨拶して会社を後にした。
「絶対、電話しろよ」
そう言った二宮くんに、軽く手を振った。いやぁ、自由だな。彼。
定時に会社を出た。
今から2週間近く、休み。というか、無職状態。何をしようか……。まだ明るい外に、どこかに寄って帰ろうか……そう思って、顔を上げる。
久しぶりのその顔に、足が動かない。清水部長だった。
「やぁ、また会えたね」
愛しくも、会いたくも、無かった……人。
逃げ……腕を掴まれ
「見せたい物がある。悪い、付き合って」
「私は……」
「うん」
それ以上、何も。何も言えなかった。……彼と彼の家に向かった。
「入って」
ドアの前で躊躇する私に言った。
「何も、しない。離れておく。ドアの鍵も開けておく」
そう言われ、足を踏み入れた。二度とこないつもりだった。この家に。
「何か色々言い訳するより、これが早いかなと思って」
そう言って、彼が渡してきた紙を受けとる。
……正式な愛人契約?
……それとも、本気だっていう離婚届?
……え?これ……
「嘘……でしょ? 」
「……本当だよ」
コメント
1件
うわあ……最後の展開、想像してなかった。清水部長がまさか本気で離婚届を出してくるとは思わなかったから、心臓がドキドキしてる。 それにしても、二宮くんの自由奔放さと吉良くんの翻弄されっぷりが面白かったな。特に「何回もはしてない!」って言い間違えるシーン、思わずツボった。過去のスパイラルからちょっとずつ抜け出そうとしてる湊ちゃんの気持ち、すごく伝わってきたよ。 蘭と麗佳さんの優しさにもじんわりきた。この作品の「闇」と「温かさ」のバランスが好きです。続きが気になる……!