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期待してはならない。
何度自分に言い聞かせたことだろうか。彼が奢ってくれた時も、上着を着せてくれた時も、あの眩しくかっこいい笑顔を俺にばかり向けてくれる時も。
期待はするなと自分に強く言って、期待はしなかった。
…けど、だけど。
「……わりぃ。もう少しこのままで居させてくれ」
いくら夢だからって、抱き締められたら期待しちゃうから。
夢だなんてすぐ分かる。周りは真っ白で何もない空間。よく小説や漫画等の夢の描写であるような場所。それになんとなくで夢だって分かる。
それなのに、分かってるのに、こんな包み込まれるように暖かく抱きしめられちゃ。
やめて、離れて。そう言いたくても、口がはくはくと動くだけで声は出なかった。
「らっだぁ、好きだ」
その言葉が耳元から届く。その瞬間動悸が早くなる。心臓がうるさいくらいに鳴り、手が震え、震えた空気が口から漏れる。
「ほんと、自分の夢でしか告白できないなんて弱ぇ男だよなあ……俺って」
そう言うぐちつぼ。
なんだよ、その発言。まるでお前も同じ夢を見ているような言い方じゃないか。
だめだめだめ、期待しちゃだめ。そう思いつつも、手が彼を抱きしめ返すように動く。彼の背中の服を、弱々しい力でくいっと掴む。すると、彼の抱きしめる力も強くなった。
「すき、すき……おれも、すきだよ」
ついに涙と共に本音が溢れてしまった。
「ほんとにすきなら、直接言ってよ、ぐちつぼ」
そう、震えた声で必死に伝える。彼の胸に顔を埋めて、泣きじゃくって。
最初から期待してたのかなあ、なんて思っちゃって。
なんて酷く優しい悪夢なんだろうか。それでも早く終わってしまえなんて思えなくて。永遠に続いてしまえ、こんな悪夢。