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「……服? 柔軟剤かな。ずっと同じの使ってるし」
「……うん、ずっと……同じ匂いだ」
「おっ、も……!」
背中でむにゃむにゃと呟いていたかと思うと、一瞬でりゅうせいの身体から力が抜けた。
こいつ、寝やがったな。さっきまで「休憩」だのなんだの阿呆なことを抜かしていたくせに、この切り替えの早さどうなってんだ。
必死の思いでりゅうせいの家まで辿り着いたが、インターホンを何度鳴らしても応答はない。
おい、どうなってんだよ。どうすんだよ、このデカい赤ちゃんを!
「りゅせ! 起きて! 家! 鍵ないの?!」
痺れる手で、お仕置き代わりにお尻をぺちぺち叩いてみたが、返ってくるのはズシンとした重みだけだ。
「マジかよ……。えー、どうすんの、これ」
そこからさらに20分。最後の力を振り絞って自分の家まで引き返した。
インターホンを押して出てきた母親は、俺が「死体」でも担いで帰ってきたのかと思ったらしい。目ん玉をひん剥いて驚いていたが、そりゃそうなるわな。
「おい、りゅせ! 起きろ!」
二階の自室まで運び込み、ベッドへ放り投げる。なんなんだ、どんだけ熟睡してんだ。
「……ん、着いた?」
「着いたじゃねえよ。俺んちだから! どんだけ爆睡してんだよ」
「……ともやにお持ち帰りされちった」
うふふ、と嬉しそうに笑って布団にくるまるな。
「してねぇわ! それより鍵は? お前んち、誰もいなかったぞ」
「うん、仕事でいないよ。鍵持ってくるの忘れちゃった」
「……それなら、仕方ないけどさ」
あー、もう。調子狂うわ。まんまとまた二人きりじゃねえか。こいつの母親何時に仕事終わるんだ?俺、いつまでこいつの看病しなきゃいけないんだよ。
「あー……お腹は? 薬、効いてきたか?」
「……また、ちょっと痛くなってきたかも。それに、薬飲んだから眠くなっちゃった」
「え、そうなの?」
腹痛の薬にそんな副作用あったっけ。酔い止めとかならよく聞くけど。
で、ここからどうする? 俺、することないし。母親に任せて学校に戻るか? 流石に今の空気で二人きりはまずいだろ。
「……俺っち重くて疲れたでしょ。ともやも一緒に寝る?」
布団をパサっとめくって誘うな。その眠そうな顔も、今は反則なんだよ。
「ばーか、寝ねぇよ。母親に見られたらどうすんだ」
「え、お母さんいるの!? じゃあ三人で寝る?!」
「なんなの? 俺の母親もあほだと思ってんの?」
「じゃあ、どっち譲りのあほなの?」
クスクス笑いながら聞くんじゃねえ。こいつ、悪意のない顔してたまにめちゃくちゃ酷いこと言うよな。
「……じゃあ、俺暇だから学校戻るわ。母親に気にするように言っとくから、りゅせはゆっくり寝てろよ」
立ち上がろうとした俺の指先に、りゅうせいの手が触れた。
「……ともやは、俺と一緒にいんの、嫌なの?」
上目遣いの、少しだけ湿った声。
さっきまでのふざけた空気が一変して、俺の足が床に縫い付けられた。
「え、あ、いや、嫌とかじゃないけど……」
そんな悲しそうな顔をされたら、心臓がズキッとする。反論しようにも言葉が詰まった。
「……そっか。良かった。じゃあ、ともやが帰ってくるまでここで寝てるね。ありがと」
にこっと笑ったかと思うと、それと同時にまぶたが閉じた。またスヤスヤと寝息を立て始めるその切り替えの早さ、マジで尊敬するわ。こっちは振り回されてばっかりだっていうのに。
寝顔だけを見ていると、本当に女の子みたいだ。この綺麗な顔に180センチの身体がついていることが、なんだかバグみたいに思えてくる。
「……赤ちゃんみてぇ」
吹き出物ひとつない白い肌を、人差し指でつんつんと突いてみる。指先に伝わる柔らかな弾力。対照的に、日に焼けて手入れもしていない自分の肌が、なんだかひどく無骨で惨めに感じた。
ふぅ、と大きくひとつ息を吐いて、俺は部屋を出た。二人きりでこれ以上いたら、どうにかなってしまいそうなのは、きっと、俺の方だ。
学校に戻るつもりだったが、母親が「友達とランチに行く」と出かけてしまったので、リビングに残ることにした。病人を一人残しておくのも、流石に気が引けるしな。
「……あれ? ともや、いたの?」
一時間ほどして、ギシギシと階段が鳴った。毛布をすっぽりと被ったままりゅうせいがのそのそと降りてくる。
「なんて格好してんだよ」
「だって、寒いんだもん」
思わずふっと笑って見つめると、一瞬、りゅうせいが固まった。何だ、俺、変なことしたか?
「……今の間。お化けでも通った?」
「……小学生じゃないんだから」
ぽてぽてと足音を立てて、当然のように冷蔵庫を漁り始める。そういうところ、本当に昔から変わらない。
「ともやママは?」
「友達とランチ。夕方まで帰んないって」
「そーなんだ」
「いや、矛盾してない?毛布にくるまりながら、なんでアイスなんだよ」
「だって、顔あっちぃんだもん」
本当にわけがわからない。またぽてぽてと歩いてくると、俺の目の前で止まってじっと見下ろしてきた。
「……ソファ、隣いい?」
「え、これ一人掛けだけど」
「いいじゃん、いいじゃん」
無理やりケツをねじ込んできやがった。毛布のボリュームも相まって、俺は完全に埋もれている。
「譲るから待てって!」
立ち上がろうとした瞬間、無理やり膝の上に座られソファと一体化させられた。……どんだけ甘えん坊なんだ、こいつは。
「ほんと、お前俺のこと好きだよな」
「は? 全然好きじゃねぇし。むしろ嫌いだし」
「なんなの、突然の反抗期かよ」
普通、嫌いなやつの膝の上でアイスなんて食うか? そんなふにゃふにゃした笑い顔で、幸せそうに。誰が見たって、そう思うだろ。
「おま……マジでやめろって!」
「ん? なにが?」
ライラ からぴち・シクフォニ♡
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