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「圭太――」
ゆずきは救急隊員から詳しい状況を聞いてきたらしく、傍まで来ると首を横に振って静かに涙を流していた。
「救急車が出るって」
ゆずきにそう言われたので、マナの体を支えながら一歩一歩ゆっくりと歩を進めた。しかし突然意識を失ったマナは膝から崩れ落ちると地面に体を打ちつけて、ピクリとも動かなくなってしまった。
「マナっ!」
大声で名前を呼び、体を揺さぶったけど何の反応もなかった。それからマナも救急車に乗せられて病院へ向かった。マナにはゆずきがついていってくれた。俺は荻野さんの救急車に乗った。
「荻野さん、どうして死んじまったんだよ――」
俺は眠り続けている荻野さんに向かって静かにそう言った。
「あなた、明石さんですか?」
「そうですけど――」
突然そばにいた救急隊員に声をかけられた。
「亡くなる少し前、私を明石さんだと思って最後の言葉を――」
「何て言ってたんですか?」
「この方は【マナを――マナを頼みます。あなたが私の代わりに――マナを幸せにしてあげて下さい】 薄れていく意識の中で、何度も何度もそう言ってました」
「荻野さん、マナが好きなのはあなたです。悔しいけどあなたなんです。だから俺にはあなたの代わりは務まりません――」
あとで聞いた話だけど、事故は信号のない片側1車線の横断歩道をマナが車を確認せずに渡ろうと飛び出したことが原因だったらしい。荻野さんは、マナを助けるために自ら犠牲となり命を落とした。だとしたら、直接ではないにせよ荻野さんを殺したのはマナということになる。誰もマナを責めてはいないけど、心の中ではみんなそう思っているに違いない。しかもそれを1番感じているのは、紛れもなくマナ自身だろう。
そして、あの悲惨な事故から数日が経った。今現在マナは精神的に不安定で、食事をまともにれない状態が続いていたので入院させられていた。こんな状態なので1人切りにしたら何をするかわからない。もしかしたら自ら命を断とうとするかもしれない。心配だったので仕事は休んでマナの傍に片時も離れずに付きっきりでいた。また、ここ数日のマナの様子はベッドで体を起こし、窓の外を眺めているだけだった。話しかけても返ってこないし、顔から笑顔は消えてしまい、まるで死人を見ているかのようだった。マナは今どんな気持ちで病院のベッドの上にいるのだろう? 自分を責め続けているのだろうか? それとも死のうと考えているのだろうか? 俺にはわからないけど、マナの心を何とかして救ってあげたかった。
「マナ、今からマナの着替えを取ってくるから、何か困ったことがあったら枕元にあるボタンを押して看護婦さんを呼ぶんだぞ」
俺はそう言って病院をあとにした。そして、荻野さんのマンションにあるマナの着替えを鞄に詰めて、再び病院に向かった。
プルルルル――プルルルル―――
電話が鳴ったので、車を路肩に寄せて停車した。