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行ってみよー!
――ポオ視点
春の匂いがする。
風が吹き抜けるたび、どこかの誰かが泣いているような、そんな気配が街をすべっていく。
季節はただ巡っているだけなのに、ぼくの体は、それに置いていかれるようだった。
病名は、知らない。
医者たちはみんな、言葉を濁した。
けれど、身体は正直だった。
目眩。吐き気。眠れない夜。
ページをめくる手が震える。ペンが落ちる。
乱歩の声が、日に日に遠くなる気がする。
たぶん、もう長くはない。
でもぼくは、
それを彼に言わないことに決めた。
「ポオくーん、今日も探偵社行くんでしょ?」
乱歩の声が聞こえると、ぼくの胸が少しだけ軽くなる。
彼はいつも通りの笑顔で、机の下から頭を出してくる。
「……勝手に潜ってくるの、やめたらどうなのである?」
「だってポオ君、顔がつまんなさそうなんだもーん。」
「……そんなことない。」
でも、本当は。
今日は特に、ひどい頭痛がしていた。
世界の輪郭が、少しずつぼやけていく。
それでもぼくは、笑った。
彼の前では、ずっと普通のふりをしたかったから。
昼休み、乱歩と一緒に街へ出る。
たい焼きを一緒に買って、
乱歩はあんこを口の端につけたまま笑った。
「ポオ君、またぼーっとしてたでしょ。だーめだよ?君、よく考えすぎる癖あるから。」
「……そうかな。」
「うん。でもね、そんなポオ君だから、僕は――」
彼がなにかを言いかけた瞬間、
突然、視界が真っ白になる。
耳鳴り。世界がぐらりと傾く。
「……ポオ君?」
乱歩の声が聞こえる。でも、音だけ。意味がわからない。
彼の手がぼくを支える。
「……ごめん、乱歩……」
ぼくはただ、それだけを呟いて、そのまま意識を失った。
目を覚ますと、そこは社内のソファだった。
ぼくの頭には冷えたタオル。
そして横には、乱歩が座っていた。
「無理させたかな。ごめんね。」
彼は、そう言って笑った。
けれどその瞳は、ずっとぼくの顔を見ていた。
まるで、何かを探しているように。
ぼくは、それが怖かった。
だから、嘘をついた。
「大丈夫。ちょっと疲れただけ。……なんでもないである。」
その嘘に、
乱歩は、微笑んでくれた。
でも。
その手は、さっきより強く、ぼくの指を握っていた。
まるで、何かにすがるように。
ポオの記録ノート(誰にも見せない日記)
春は、全部を隠してくれる。
花も、風も、人の気持ちも。
君が気づかないままなら、それでいい。
ぼくは、君にとって“最期”じゃなくて、“いつもの日々”でいたい。
だから今日も、「大丈夫」って、君に嘘をつく。
次回2話乱歩視点
6月中に終われるか?ってずっと疑問