コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「友達って…何だと…思いますか…?」
ぽつり、と呟いた問いかけに、再び間が空く。わかったのだ。店長がこうやって沈黙を続けるのは返事に困ってるからじゃない。
必死に答えを探してくれてるからだと。
だから私は安心して待つ。
しばらくすると、店長が答える気配を感じた。
「うーん、これだ、という定義はないと思うけどね。ただ、頑張らなくてもありのままの自分でいれる存在なら、それはもう友達なんじゃないかな。それだけって思うかもしれない。けど、たったそれだけのことが難しかったりするもんだよ。ははは。」
「っ…」
(分かる。今までいい子を演じてきた私には、特に。なかなか素の自分を見せられなくて、でも姫菜には悪い部分も見せれた。なにも考えなくても。だけど…)
私の家が、遠くに見えてくる。何もない空っぽのお家。
そんな私が逃げる場所はいつだって…姫菜だった。
「……やっぱり、違います。」
移り変わる景色を睨みながら言った。
「へ?」
店長が横目で私を見てくる。
「私と、あのこ…姫菜は、友達なんかじゃありません。」
「…うん。藤塚さんがそうなら、そうかもしれないね。」
否定なんか少しも含まない、穏やかな声。心地よく耳に流れ込む。
「だけど…」
エンジンが停止し、無音になる。目的地に着いたようだ。
「ありがとう、ございました。店長に話、聞いてもらえてよかったです。」
シートベルトを外し、降りる準備をする。
店長は、安心したようにはにかんだ笑顔を浮かべた。
「本当かい?それなら、よかった。」
「店長って普段頼りないのにやっぱり、こういう時は大人なんですねー。」
「うっ…喜んでいいのか…」
複雑な顔で悩んでいる様子に思わず吹き出してしまう。
「ふふ。また、話し聞いてほしいです。」
今日の私はどうかしている。こんな風に誰かに自分の話ししたり、頼ったり。
それがこんなにも楽になれるなんて知らなかった。
しかも大嫌いな男なんかに。でもきっと…店長の前だけ。
「ああ。俺でよかったら。じゃあまた、仕事で。」
「はい。お疲れさまです。」
エンジン音と共に走り去る車を、見えなくなるまで見送った。
(友達…か。)
店長から貰った言葉を胸の中で何度も繰り返しながらーー