テラーノベル
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世界には「人間」と、人間から「穢れた存在」として忌み嫌われる「獣人」がいた。
獣人は、その美しい姿と、人を惑わす「呪歌」を持つと信じられ、森の奥深くでひっそりと暮らしていた。
見つかれば、すぐにでも討伐隊の標的となる。
その日も、旅の音楽家である
若井滉斗と藤澤涼架は、ボロボロの馬車を揺らし、楽器を抱えて森の道を歩いていた。
彼らは、差別や分断が渦巻くこの世界で、音楽の力で人々を結びつけることを夢見ていた。
「おい、涼ちゃん。そろそろ日が暮れるぞ。この森、獣人が出るって噂だろ?」
若井が神経質そうに周囲を見渡す。彼の腰には、護身用の剣が提げられている。
「大丈夫だよ、滉斗。僕たちの音楽は、どんな生き物にも届くはずだから」
涼ちゃんがフルートを構えた、その時。
森の奥から、澄み渡るような**「歌声」**が響いてきた。
それは、まるで凍てついた泉が溶け出すような、あるいは夜空に零れ落ちる星々が歌い出すような、途方もなく美しい旋律だった。
若井も涼架も、その場に立ち尽くす。
これまで聴いたどんな音楽とも違う。
魂の奥底まで震わせる、神聖な響き。
「……こんな歌、聴いたことがない……」
若井は吸い寄せられるように、声のする方へ足を踏み出した。
涼架が止める間もなく、彼は獣人の森の奥へと分け入っていく。
小川のほとり。
そこには、少年が、膝を抱えて座っていた。
夜空のような深い色のローブを羽織り、顔を隠すように俯いている。
そして、その頭には
ふわふわとした、猫の耳が、ピクリと揺れていた。
少年は、自分が歌っていることにすら気づいていないかのように、ただ静かに、瞳を閉じていた。
若井は息を呑んだ。
これが、人間が「恐ろしい呪歌」と呼ぶ獣人の歌声なのか?
違う。これは、ただ純粋で、あまりにも悲しい、「祝福の歌」だ。
少年は歌い終えると、若井達の存在に気づき、ハッと顔を上げた。
その瞳は、深淵の闇を湛えながらも、
黄金色に輝く琥珀のようだった。
そして、見るからに怯え切った、小さな口が震える。
「……あ……!」
少年は驚愕と恐怖に顔を歪め、一目散に森の奥へと走り去ろうとした。
若井は咄嗟に手を伸ばす。
「待ってくれ! 君の歌は……君の歌は、呪いなんかじゃない!!」
コメント
2件
新しいお話✨️✨️楽しみにしてます!!