テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#高校生
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第19話 「背負うもの」
春。
桜が咲き始めた柳城高校。
グラウンドにも、新しい空気が流れていた。
新入生。
新しい背番号争い。
そして――
夏まで、あと少し。
小早川啓介は二年生になっていた。
だが周囲の見る目は、もう“二年生”ではなかった。
「柳城のキャッチャー、かなり良いらしい」
県内でも少しずつ名前が知られ始めていた。
練習試合。
相手校ベンチからも声が聞こえる。
「一年の時から出てたやつだろ?」
「肩強ぇな……」
だが啓介自身は、そんな余裕はなかった。
九州大会。
あの敗戦。
全国レベルとの差。
それが頭から離れない。
ある日の練習試合。
相手は県外の強豪・海星学院。
試合前。
福間監督がベンチ前で言う。
「今日は結果より、“何が足りんか”見ろ」
選手たちがうなずく。
試合開始。
海星学院は強かった。
打球速度。
走塁判断。
守備の連携。
一つ一つが速い。
3回。
一瞬の隙を突かれる。
二塁牽制のわずかな遅れ。
そこから三塁進塁。
そしてスクイズ。
失点。
啓介は歯を食いしばる。
(今のは防げた……!)
さらに中盤。
インコースを狙った球をレフトスタンドへ運ばれる。
ベンチが静まり返る。
福間監督は怒鳴らなかった。
ただ、小早川を見ていた。
その視線が逆に苦しかった。
試合後。
柳城は2対6で敗れた。
グラウンド整備後。
小早川は一人でベンチに座っていた。
夕陽がグラウンドを赤く照らす。
「落ち込んどるな」
福間監督だった。
「……はい」
小早川は俯いたまま言う。
「全国は遠いです」
少し沈黙。
福間監督はベンチへ腰掛ける。
「当たり前や」
「簡単に届くなら、みんな甲子園行っとる」
静かな声。
「でもな」
「届かんと思ったら、そこで終わりや」
小早川は顔を上げる。
福間監督はグラウンドを見る。
「お前は、まだ伸びる」
「今、自分の弱さが見えとるやろ?」
小早川は小さくうなずく。
「それが一番大事や」
その言葉が胸に残る。
その頃。
部室では舞が洗濯物を畳んでいた。
「お兄ちゃん、まだ?」
二年生主将が苦笑する。
「たぶんまた監督と話してる」
舞は少しだけ笑った。
以前より分かるようになっていた。
啓介が悩んでいる時。
何かを考えている時。
そして――
本気になっている時。
夜。
帰り道。
水路沿いを歩きながら、小早川は空を見上げる。
(もっと強くなる)
(柳城を、甲子園へ連れていく)
春の風が、静かに吹いていた。
第19話 終