テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#高校生
第20話 「夏へ」
春季大会。
柳城高校は県大会ベスト8まで勝ち進んでいた。
だが準々決勝。
再び、西陵学園に敗れる。
3対5。
あと一歩届かない。
試合後。
整列を終えた小早川啓介は、しばらくグラウンドを見つめていた。
春が終わる。
つまり――
夏まで、あと少し。
学校へ戻るバスの中。
空気は重かった。
誰も大きな声を出さない。
その中で、福間監督が静かに立ち上がる。
「悔しいか」
「……はい」
「なら、まだ強くなれる」
短い言葉。
だが全員が顔を上げる。
福間監督は続けた。
「夏は、待ってくれん」
「今日から変われ」
窓の外には、水田が広がっていた。
その日から。
柳城の練習はさらに厳しくなる。
早朝ラン。
振り込み。
ケース練習。
そして実戦形式。
「次の一点を考えろ!」
「アウト一つを雑にするな!」
福間監督の声が飛ぶ。
小早川は、毎日汗だくでミットを構えていた。
ある日。
ブルペン。
エースが突然言う。
「小早川」
「はい?」
「お前、変わったよな」
小早川は首を傾げる。
「前は“自分が上手くなりたい”って感じだった」
「でも今は、“勝ちたい”って顔してる」
その言葉に、小早川は少し黙る。
確かにそうだった。
一年の夏。
ただ必死だった。
でも今は違う。
勝ちたい。
柳城で。
福間監督と。
この仲間たちと。
甲子園へ行きたい。
夕方。
ベンチで舞がスコアを整理していた。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「最近、怖い顔してる」
「え?」
舞は笑う。
「前より、“野球のことしか考えてない顔”」
小早川は苦笑した。
「そんな顔してるか?」
「してる」
その時。
グラウンドから福間監督の声。
「小早川!舞!」
「片付け終わったら帰れ!」
「はーい!」
舞が返事をする。
夕焼けが、グラウンドを赤く染める。
福間監督は一人、バックネット裏からグラウンドを見ていた。
(少しずつや……)
弱かった柳城。
勝てなかった柳城。
そのチームが今、確実に変わり始めていた。
そして迎える。
2020年。
小早川啓介、最後の夏。
だがその夏は――
誰も想像していない形で、止まろうとしていた。
第1章 完
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!