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月が、いかにも大きく見えた夜やった。山奥の小さな村。
都会から来たあんたは、宿も取らずに迷い込んだんやろ?
暗い山道を歩いてたその姿を、偶然……
いや、必然やったんかもしれんけど……
俺は見つけた。
『こんな時間に、どこ行くんや』
声をかけた瞬間、あんたは驚いて振り向いた。
街灯もろくにない道で、月明かりに照らされた俺の姿を見て、普通なら悲鳴を上げるはずや。
尖った耳、銀色の毛並み、黄金色の瞳。
人間やない証拠が全部顔に出てる。
けど、あんたは……
逃げんかった。
「……あなたは、人間じゃないですよね?」
その声は震えてなかった。
むしろ、俺を試すみたいやった。
胸の奥が、ズキンと痛んだ。
俺はずっと化け物やと蔑まれてきた。
人と関わるのは御法度。
まして、女に正面から見られるなんて……。
『人間やないけど、人間でおりたいとは思てる。』
自分でも何言うてるか分からん。
けど、あんたの瞳は俺の言葉を否定せんかった。
「もしよかったら、私の案内をしてくれませんか?」
あんたは月に照らされながら笑った。
その笑顔は、牙よりも鋭く、俺の心を貫いた。
遠くでフクロウが鳴いた。月はますます白く輝く。
この夜から、俺の呪いは別の形で膨らみ始めたんや。