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23話 「路地裏の追跡」
夕暮れの王都は、昼の喧騒が嘘のように静まる。
商人たちは店を閉め、衛兵の松明がゆらゆらと通りを照らす時間だ。
俺たちは昼間見た黒外套の男たちを追って、裏通りを歩いていた。
「……さすがに堂々とは奴隷を運ばないか」
「でも、あの“特別品”って言葉が気になるわね」ミリアが呟く。
ルーラは口を閉ざしたまま、後ろを歩いている。
薄暗い路地を曲がった瞬間、俺は足を止めた。
先の角で、黒外套の一人が何かを運び出している。
小さな檻――中に座り込む影が一つ。
「……やっぱり」
胸の奥がざわつく。
俺は手で合図し、物陰に身を潜めた。
黒外套の男は、檻を荷車に載せると別の仲間と短く会話を交わし、ゆっくりと裏通りを進み始める。
「行くぞ」
俺たちは距離を保ちながら追った。
裏通りは迷路のように入り組んでいる。石畳は濡れて滑りやすく、腐った木箱や樽があちこちに積まれていた。
途中、酒臭い男が酔って転び、道を塞いだ。
「ちっ」俺は片手で酔っ払いをどかし、再び影を追う。
だが、角を曲がった瞬間、背後から甲高い金属音が響いた。
振り向くと、鉄屑を入れた籠が路地に落ち、衛兵がこちらを見ている。
「おい、そこの三人! こんな時間に何をしている!」
黒外套の連中はその隙に速度を上げ、さらに奥へ消えかけていた。
「くそっ、走るぞ!」
俺たちは衛兵を振り切り、細い抜け道へ飛び込む。
しかし――
抜け道の先に出た時には、もう檻も荷車も影もなかった。
残っていたのは、地面に落ちた小さな布切れだけ。
それは、銀色の糸が織り込まれた薄い布。
「……これ、あの檻の中の子が着てた服?」ミリアが布を手に取る。
ルーラは無言でそれを見つめていた。
胸の奥に、昼間の違和感が再び灯る。
この王都の裏側には、俺たちが知らない闇がまだまだ潜んでいる。
そして、きっと――近いうちに、それと正面から向き合うことになるだろう。