テラーノベル
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サブダンジョンに到着した五人は、入り口を見て固まった。
「……何これ」
テーブル。
椅子。
ケーキ。
紅茶。
そして、その中央で優雅にお茶を飲んでいる人物。
「遅いよー」
「……魔王?」
佐久間が呟いた瞬間。
目黒は反射的に毒針を取り出した。
「ちょ、待って待って!」
目黒が投げようとすると、魔王は慌てて両手を上げる。
「俺、今回魔王じゃないよぅ! やめてよぅ!」
「……今回?」
「前回! 前回の魔王!」
「紛らわしいな」
「ひどい!」
仕方なく。
五人は前の魔王とお茶会をすることになった。
___________
「それで、空飛ぶ靴が欲しいんでしょ?」
「そう!」
佐久間が答える。
「あれねぇ」
前の魔王はケーキを食べながら、あっさり言った。
「もうないよ」
「え?」
「今の魔王が制覇しちゃった」
全員が固まる。
「なんで魔王がサブダンジョン攻略するの?」
渡辺が聞くと。
「空飛びたかったんだって」
「自由すぎるだろ」
「楽しそうだったよ」
目黒は露骨にがっかりした。
「……じゃあ海行けない」
早く終わらせて。
早く阿部のところへ帰りたかったのに。
そんな目黒を見て。
前の魔王がにやっと笑った。
「目黒くん」
「一つお願い聞いてくれたら、みんな空飛べるようにしてあげる」
目黒が顔を上げる。
「何すればいい?」
「即答だね」
前の魔王は楽しそうに笑った。
「現実に戻ったら一週間、あべちゃんが恥ずかしくなるような甘い言葉をかけ続けてね」
「分かった」
また即答。
佐久間が笑う。
「蓮、それお願いじゃなくてもやりそう」
「やるね」
ラウールも頷いた。
「めめ、普段から結構言ってるもん」
「じゃあもっと言う」
「お仕置きだからね」
「……お仕置き?」
目黒が首を傾げる。
前の魔王は紅茶を飲んだ。
「あべちゃん、イカ焼き食べて具合悪かったのに連絡しなかった」
「……。」
目黒の表情が変わった。
「やっぱり具合悪かったの?」
「うん」
「天使、寝たら治るって」
「適当だから、あの天使」
「帰ったら怒る」
「天使を?」
「うん」
「ほどほどにね」
___________
前の魔王は思い出したように付け加えた。
「あ、そうそう」
「何?」
「今の魔王、あべちゃんだから」
「……。」
五人が止まった。
「え?」
目黒が聞き返す。
「あべちゃん?」
「うん」
「魔王?」
「そう」
佐久間が立ち上がる。
「あべちゃん今回賢者じゃないの!?」
「賢者だけど魔王だよ」
「なんで!?」
「俺疲れちゃったから」
「適当すぎる!」
前の魔王は楽しそうに笑う。
「あべちゃん、すっごく楽しそうだよ」
「……何してるの?」
「モンスター倒しまくってる」
「……。」
「陸のモンスター、かわいそう」
ラウールが呟く。
「おっちょこな魔王って……」
「……あべちゃんだったんだ」
目黒は複雑な顔になった。
可愛いけど海を完全に忘れている。
確かに少しおっちょこだった。
___________
前の魔王が目黒のステータスを覗く。
「目黒くん、弱いよ」
「毒針あるけど」
「そういう問題じゃない」
「レベルも上げたよ」
「全然足りない」
前の魔王は困ったように笑った。
「だって最後、あべちゃん倒さないと現実に帰れないよ?」
「……え?」
目黒の顔から表情が消えた。
「今なんて?」
「あべちゃん倒さないと帰れない」
「絶対無理」
「でも倒さないと帰れないよ」
「じゃあ帰れなくていい」
「蓮!」
佐久間が慌てる。
「現実のあべちゃんのところ帰るんでしょ!?」
「……。」
それを言われると弱い。
前の魔王は目黒をじっと見て、何かを思いついたように笑った。
「仕方ないなぁ」
指を鳴らす。
パチン。
その瞬間。
目黒の身体を黒い光が包んだ。
「え?」
白を基調としていた勇者の服が。
一瞬で黒く染まっていく。
黒いマント。
黒い鎧。
剣まで禍々しい姿へ変わった。
目黒は自分の身体を見る。
「……何これ」
前の魔王は満足そうに笑った。
「闇落ち完了」
「勝手に闇落ちさせないで」
「これでかなり強くなったよ」
佐久間が目黒のステータスを確認する。
「うわ! 蓮めちゃくちゃ強くなってる!」
宮舘も覗き込む。
「これなら魔王とも戦えそうだね」
「戦わないよ」
「でも帰れないよ?」
「……。」
目黒は黙った。
現実へ帰るためには。
大好きな阿部を倒さなければならない。
そして。
この世界の阿部は。
何も知らずに楽しそうにモンスターを倒しまくっているらしい。
「……佐久間くん」
「何?」
「戦わないであべちゃん説得する方法考えよう」
「魔王討伐のゲームで!?」
「だってあべちゃんだよ?」
「……まあ、蓮には無理か」
前の魔王はそんな二人を眺めながら、楽しそうに紅茶を飲んだ。
「頑張ってね、闇落ち勇者」
「その呼び方やめて」
こうして。
海のモンスターを倒しに来ただけだった目黒は。
いつの間にか、魔王になった阿部と戦うために闇落ちさせられていた。
しかも現実へ帰った後には。
一週間、阿部が恥ずかしがるほど甘い言葉を囁き続けるという、ミッションまで待っていた。
___________
五人はようやく、海のモンスター討伐へ向かった。
空飛ぶ力を手に入れ、海の上へ出る。
「いた!」
佐久間が指差した先には、大量のモンスター。
ところが。
闇落ちした目黒が剣をひと振りすると。
一気にモンスターが消えた。
「……強すぎない?」
渡辺が呟く。
「俺たちいらないね」
宮舘も笑った。
結局。
目黒が一人で海のモンスターを倒し続け。
残された佐久間、宮舘、渡辺、ラウールは――
「紅茶いる?」
「もらう!」
前の魔王と空中でお茶会を始めた。
「なんで俺だけ働いてるの?」
遠くから目黒が不満そうに言う。
「蓮、頑張れー!」
「めめ頑張って!」
誰も手伝う気はなかった。
___________
ようやく最後のモンスターを倒す。
「終わった……。」
疲れた目黒がお茶会へ戻ってくると、前の魔王がケーキを食べながら言った。
「あべちゃん、今頃裏ダンジョンにいるよ」
「裏ダンジョン?」
「人化の杖を取りに行ってる」
「何それ?」
「モンスターを人間にできる杖」
前の魔王は楽しそうに笑う。
「俺がお願いしたの。モンスターと人間が仲良く暮らせる世界にしたいって」
佐久間が首を傾げる。
「じゃあ、あべちゃん世界平和のために魔王やってるの?」
「そうだよ」
「倒しづら!」
目黒はますます嫌そうな顔になった。
___________
「ちなみに、お仕置きはもう始まってるから」
「……何?」
目黒が反応する。
「夜になったら、あべちゃん現実に戻れないことに気付くよ」
前の魔王はさらっと続けた。
「多分、魔王城で泣く」
「……。」
目黒の顔色が変わる。
「今すぐ行く」
「まだ夜じゃないよ」
目黒は本気で飛び立とうとする。
前の魔王が慌てて止めた。
「最後まで聞いて!」
「何?」
「魔王城の玉座。その椅子の下に地下へ続く入口があるから」
「うん」
「そこに剣がある」
前の魔王は笑った。
「その剣で、あべちゃんを倒してね」
「……嫌なんだけど」
「倒さないと二人とも帰れないよ」
目黒は深いため息をついた。
世界を救うより。
海のモンスターを倒すより。
目黒にとって一番難しい『魔王あべちゃん討伐』だけが、最後に残っていた。
コメント
1件
はぁ~~~もう待って待って待って!!😭💕 第3話でこんな大展開くると思わなかったよ!! 前の魔王のゆるふわお茶会から始まって、まさかの阿部が魔王で、しかも世界平和のためにモンスター人間化しようとしてるって…倒しづらすぎるでしょ!! 目黒が「絶対無理」って即答するの、めっちゃ分かる…大好きな人を倒さなきゃ帰れないって拷問すぎるよ😭 しかも勝手に闇落ちさせられてて笑ったw ラストの「一番難しい『魔王あべちゃん討伐』だけが残っていた」って一文、痺れた…続きが待ちきれない!!🔥
kaede🍁
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