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春の風が優しく吹き抜ける午後。
部屋の窓から差し込む光が、ないこの机に置かれた白い紙を淡く照らしていた。何気なく描いていたラクガキが、いつの間にか意味のない黒い線で埋め尽くされていることに気づく。
ないこ: ……また、こうなってる。
ペンを置き、ため息。
最近、こういうことが増えた。音楽も、配信も、みんなとの活動も順調なはずなのに、心のどこかにぽっかりと穴が空いたような感覚が消えない。
笑顔で話す自分。
ファンの前では明るくて、元気で、誰よりもテンションが高い「ないこ」だけど。
――それ、本当の自分なのかな?
鏡の中の自分が、一瞬だけ笑っていなかった気がした。
それに気づいた瞬間、鳥肌が立つ。だけど、もう一度見ても、そこにいるのはいつも通りの「ないこ」だった。
ないこ: 気のせい、だよね。
心にモヤがかかったような日々が続く。
スケジュールはびっしり。歌って、話して、笑って、元気に見せて……それでも、夜になるとどうしようもない孤独が襲ってくる。
眠れない夜。
ベッドの横にある姿見が、ふと気になった。何かに引き寄せられるように、立ち上がる。
鏡の中の自分が、ほんの少し遅れて動いたような気がした。
ないこ: ……え?
言葉を発する間もなく、鏡の中の“ないこ”が、かすかに微笑んだ。
その笑みは、どこか歪んでいて、どこか哀しそうで、それでいて――とても懐かしかった。
その夜、ないこは夢を見る。
真っ暗な空間。声も音も何もない中、ぽつんと立っている自分。
背後から誰かの気配がして、振り向くとそこには――
鏡の中の闇ないこ: やっと気づいたね、ないこくん。
自分と同じ顔。けれど、目の奥に深い闇を湛えた、もう一人の“ないこ”がいた。
次回:「第二話:鏡の囁き」へ続く。