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夢の中。
どこまでも広がる闇の空間に立ち尽くすないこは、目の前に立つ“もうひとりの自分”を見つめていた。
その顔は自分と同じなのに、どこか違う。
笑みの奥に、酷く冷たい絶望が漂っている。
ないこ: ……誰?
鏡の中の闇ないこ: 誰って、ひどいな。ずっと前から、君の中にいたのに。
ないこ: 僕の……中?
鏡の中の闇ないこ: うん。君が「笑って」ばかりいた頃から。
鏡の前で泣いた夜も、何も言わずに配信した朝も。
その全部、ずっと見てた。ずっと――我慢してたんだよ、僕たち。
ないこ: 僕は、我慢なんて……してない……
鏡の中の闇ないこ: じゃあ聞くよ。
本当は、あの時やめたかったんじゃないの?
「楽しい」って言いながら、心は空っぽだったんじゃないの?
ないこ: ……やめて。
鏡の中の闇ないこ: 僕は君の代わりに怒ることも、泣くこともできる。
君が弱いままでいられるように、全部受け持ってあげるよ。
ないこ: 僕は、弱くなんか……
鏡の中の闇ないこ: じゃあ証明してよ。
このまま朝が来ても、また笑っていられるなら、それでいい。
でも、もし君が本当の自分から逃げたいなら――そのときは、鏡を覗いて。
ふっと、闇が溶けていく。
気がつけば、ないこはベッドの中で息を荒くして目を覚ましていた。
額に浮かぶ汗。心臓がうるさいほどに鳴っている。
ないこ: ……夢……だよね。
ベッドから起き上がり、姿見の前に立つ。
朝の光が差し込んでいるのに、鏡の中の自分の目だけが、どこか冷たく光って見えた。
ないこ: ……そんなわけ、ない。
そう自分に言い聞かせるように、視線を外す。
今日も配信がある。
みんなの前では、いつも通りの「ないこ」でいなきゃいけない。
そう思いながら、鏡に背を向けたないこは知らなかった。
彼が目を背けたその瞬間、鏡の中のないこが――ゆっくりと口元を歪めて、微笑んでいたことに。
次回:「第三話:ひび割れた日常」へ続く。