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狭い家の中で。蝋燭の火が燃え盛る中。全身で絶叫している母を見つけた。
「痛い。苦しい。助けて。」
そんな絶望の叫びが私の耳の全細胞まで響いてきた。母は黒いパーカーを着ている小柄なフードの”何か”に襲われていた。あらゆる所から血が飛び出る。目の前の惨劇を受け入れられず、ただ静止していた私に気が付いたのか、黒いフードの”何か”は立ち上がり、一歩一歩。私に近づいてくる。歩いてくる”何か”に私は、恐怖で声も出せず。足がすくみ、一歩も動けなかった。歩いてくる何かを。ただ、見ていたのだ。蝋燭の火が辺りを照らす。母の声の残響が、どんどん小さくなっていく。蝋燭の火がゆらゆらと揺れ、明かりが黒いフードの”何か”を照らし、次第に、フードの中身が姿を現した。
蘭…?
そこにいたのは、半年前から行方不明だった、妹の、姿だった。
私は、必死に言葉を選んだ。
「蘭、?どう…したの?」
蘭は表情を変えず、ハンマーとナイフを持ってこちらへやってくる。殺す気だろうか。
私は母と同じく、手で。指で。声で。目で。全身で。
衝動的に金切り声をあげた。
ゴン!…とその瞬間。
私は、脳内の意識を全てシャットダウンされた。
「お姉ちゃん!」
「あ、蘭。どうしたの??」
「最近元気ないじゃん!なんかあったの?」
「ちょっとね…好きな人から振られちゃって…」
「えー!!お姉ちゃん好きな人いたんだ!」
「ちょ、ちょっと!!大きな声で言わないでよ。恥ずかしいんだから…」
「でも本当にその好きな人と結ばれていたら、お姉ちゃんは幸せだった??」
「え?そ、そりゃね…好きな人と一緒に暮らせたら幸せだと思うよ。」
「じゃあ蘭が幸せにする!」
「え??蘭が?」
「そう!ずっとお姉ちゃんのそばにいる!だって蘭はお姉ちゃんが大──────」
──────真っ白だ。
頭に無数の痛みが走る中。
白い無が目の全てに覆われる。
「お姉ちゃん!」
「、?」
頭痛が脳内を反響する中、眼だけを声のする方へ向けた。
「ら…ん…?」
「そうだよ!良かった!目が覚めたんだ!
もう心配したんだから!!」
妹だ。私の妹が。私の体に抱きついている。
何故だろう。なんでこんなに。
妹の顔を見ると、哀しくなるのだろう。
「こ…こ……は、?」
未だに場所、状況を飲み込めていなかった私は頭痛を耐え問うた。
「病院だよ!お姉ちゃん…家の玄関で頭から血を流してたんだよ??もう心配で心配で…」
病院…?なんで病院にいるんだろう。頭から血を…?
よく思い出せない。でも、なにか。思い出さなきゃいけない事があった気がする。
「お…かあさん…は、?」
「……落ち着いて聞いてね。お母さんはね。
もう いない」
「え…?」
お母さんはもういない…?
どこか旅行でもしてるのかな。
それとも私が眠っている間に面会に来てもう帰っちゃったって事なのかな。
「どう…いうこと、?」
蘭は少し寂しそうに言った。
「お母さんはね。殺されちゃったんだ。」
「ころ…された?」
「うん。腹部を滅多刺しだってさ。」
「お母さんが…殺された…?冗談はやめ…」
「冗談じゃないよ。ほら。これが証拠。」
蘭は仰向け状態の私にスマホの画面を向けた。その写真には、玄関が黄色のビニールテープで固定された、自分の家の姿があった。
「え…本当に死んじゃったの、?嘘だ、嘘だよね。」
蘭は苦しそうに 首を横に振った。
「そんな…な、なんで…!?」
「分からないよ。でもハッキリしてる事はあるよ。」
妹は病院のベッドに付属されている点滴の袋部分を突きながら言った。
「お母さんを殺した犯人の名前。
知ってるでしょ?黒澤春輝。」
「黒澤…春輝…?蘭の…クラスの…?」
頭痛に耐え、悶えそうになる程の苦痛の中、脳は記憶を還元させようと必死に思考を巡らせていた。
「そう。黒澤。春輝。憎いよね。本当に。」
お母さんが死んだ。蘭は確かにそう言った。優しくて子供が大好きで家族の為に必死に働いた自分の母が死んだのだ。
黒澤春輝の手によって。
理由などどうでもいい。
只只、心が叫んでいた。
頭痛。絶望。悲しみ。涙。表現するには何だっていい。ただ、全てが外へ出てしまいそうだった。
「…いるの」
「?」
「黒澤春輝はどこにいるの」
「あー学校だよ。私は学校休んで面会来たから。」
「そう…」
私は苦痛と疼痛で破裂しそうな頭をベッドから起き上がらせる。
「じゃあ。行って…きます。」
「え、?お姉ちゃん!?」
私を止めようとする妹を振り解き、点滴、管を全て外す。
痛い。痛い。でもこの痛みは、
母の受けた苦痛と比べたら小さなものな気がした。
「お母さん。待っててね。」
「…!?お姉ちゃん待っ…」
私は2階の病室の窓を豪快に開き、病室の真下にあった病院の中庭にある池に飛び降りた。池は思ったより深く、私の体重を強く受け止めた。水面に叩きつけられた衝撃が全身を巡り、池の透き通った水が私の傷口に染みるのを感じる。
透き通った池の中を漂う様に無抵抗で沈む。太陽の光が水面を照らす。光の反射で瞳孔に太陽の光が突き刺さる。ゆっくり目を閉じ、手を握り、決心した。
痛い。知ってる。でも。やらなきゃ。
やらなきゃ。
殺らなきゃ。