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side wki
深夜の会議室に、重苦しい静寂が漂う。
スタッフたちが次々と「お疲れ様でした」と部屋を後にし、重い扉が閉まる音が廊下に響くたび、俺の心拍数は速くなっていった。
「……ねえ若井、今日も俺ん家来るよね?」
甘ったるいけれど、どこか有無を言わさない声色。
それは決定事項であり、逃げ場を塞ぐための鎖だ。
横目で盗み見ると、元貴はペンを指先で弄びながら、獲物を定めるような濁った瞳で俺を見つめていた。
「………明日も仕事あるけど…」
「知ってるよ。でも、今日やんないと俺、明日動けなくなるかも」
楽しげに目を細めらがらも、その奥に潜む「何か」に、抗える術を俺は持っていない。
こいつのコンディションが崩れることは、グループの存続に関わる死活問題だ……なんて、自分に都合のいい言い訳を頭の中で反芻する。
「………分かったよ、行く」
「あはは、やっぱり若井は優しいね。大好きだよ。」
満足げに笑う元貴の横顔を見て、胃のあたりがキュッと締まるような感覚に陥った。
駐車場からエントランスを抜け、エレベーターの中に逃げ込むように入り込む。
扉が閉まった瞬間に密室の静寂が訪れる。
鏡張りの壁に映る俺たちは、数時間前まで大勢のスタッフに囲まれていた「アーティスト」の顔を辛うじて保っている。
けれど、隣に立つ元貴から放たれる熱量は、もう隠しきれないほどに膨れ上がっていた。