「ん……眩しい」
窓から射し込んでくる日差しの眩しさにリディアはゆっくりと目を開けた。
「あ、朝⁉︎」
部屋の明るさからして、完全に遅刻だ。リディアは勢いよく飛び起きた。
「痛っい‼︎……ゔぅ………もう、ハンナ! どうして起こしてくれな……」
勢い余ってベッドから転げ落ちた。朝から最悪だ。リディアは痛みで涙目になりながら身体を起こす。
最近では、毎朝自分で起きていたが流石にこんな時間まで放置するなど薄情だと思いながら声を上げる。
だが、何時もと違う部屋に完全に思考が停止した。そして一気に目が覚める。
「え、あれ……え? 此処どこ⁉︎」
状況が飲み込めず混乱していると、扉がノックされ開いた。
「マリウス殿下⁉︎」
部屋の中に入って来たのは、満面の笑みを浮かべたマリウスだった。
「おはよう、リディア嬢」
「あ、はい。おはようございます」
至って普通に挨拶をされたリディアは、反射的に丁寧に挨拶を返した。
「ではなく! マリウス殿下、私、何故、此処は、何処⁉︎ ですか⁉︎」
混乱して話し方がおかしくなるが、今はそんな事を気にしていられない。リディアはこの状況に一人狼狽える。
「此処は僕の離宮だよ。昨夜リディア嬢が、突然眠ってしまったからそのまま泊めたんだ。屋敷まで送ろうかとは考えたんだけど、良く寝ていたから起こすのは忍びなくてね」
彼の言葉に、昨夜の事を思い出す。あろう事がお茶の席で眠ってしまった……しかもマリウスの前でだ、あり得ない。
呆然としながらリディアは、改めて今の自分の格好に気付いた。何処からどう見ても夜着だ。
「っ⁉︎」
一気に顔を真っ赤にして今度は慌てふためく。
「ま、ま、マリウス殿下っ‼︎ わ、わ、私取り敢えずき、き、き着替えても宜しいですか⁉︎」
「ははっ! ごめんね、気が利かなくて」
軽く笑いリディアの耳元に唇を近づける。そして「愛らしい姿を見れて、今日は運が良いみたいだ」そう囁き部屋を出て行った。
リディアは余りの出来事に立ち尽くし、マリウスと入れ違いに入って来た侍女に声を掛けられ、我に返った。その後、侍女に着替えを手伝って貰いリディアも部屋を出た。
侍女に連れられて着いた先は、離宮の中庭だった。テーブルと椅子が置かれており、そこには既にマリウスが座って優雅にお茶を啜っていた。日差しに照らされ無駄に煌びやかに光り輝いている。
(ま、眩しい……)
そんな風に戸惑っていると、マリウスから椅子を勧められた。リディアは言われるがままに向かい側へ腰を下ろす。
「さあ、お食べ。どれも出来立てで美味しいよ」
テーブルには焼き立てのパンと卵料理、サラダなどが用意されていた。パンの良い香りに、思わず喉を鳴らしてしまう。食べなくても分かる。これは絶対美味しいやつだ。
「い、頂きます」
色々思う事はある。だが折角の焼き立てパンが冷めてしまう。リディアは、パンを上品に小さく千切り口に入れていく。
「あの、マリウス殿下」
「何かな」
相変わらず愉しそうだ。何を考えているのか全くもって読めない。
「昨夜は醜態を晒してしまい、申し訳ございませんでした……」
食べる手を止め、真っ直ぐとマリウスを見遣る。
「気にしてないよ。昨日もだけど、此処最近君は色々大変だったから疲れが出たんだろう。リディア嬢さえ良ければ、落ち着くまで此処にいても良いんだよ」
「……いえ、そう言う訳には」
「あぁ、僕はそろそろ行かないといけないけど、君はゆっくり食べていて。後母上には暫く仕事は休むと伝えてあるから、心配しなくていいよ。僕は夕刻には戻るからね」
リディアが口籠もっていると、徐にマリウスは席を立つ。そして自身の言いたい事だけを言い終えると手をひらひらさせながら、行ってしまった。
「あ、マリウス殿下! 私はどうしたら……行っちゃった」
リディアは深いため息を吐く。
本当はこんな場所で優雅に朝食をする気分でも、している場合でもない。だが、食後のデザートまで確り食べ終えた。我ながらちゃっかりしてるなと思う今日この頃だった。