テラーノベル
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第3話です!
鳥取が消えてから、誰も席に座れなかった。
四十六の席。
一つだけ、最初から空席だったかのように静まり返っている場所。
「……なあ」
大阪が、乾いた声で言った。
「今、誰が消えたんやっけ」
その瞬間、全員の喉が詰まった。
思い出せない。
名前が、引っかからない。
「……いや、覚えてる」
福岡が眉を寄せる。
「覚えてるけど、口に出そうとすると、なんか……」
「引きずり出せない」
広島が静かに言った。
「記憶が、滑る」
東京は、何も言わずに空席を見ていた。
視線だけが、そこに縫い留められている。
声が告げる。
「待て」
東京が、低く言った。
「一つ確認させろ」
「“存在しなかったものとして扱う”とは」
「今みたいに、記憶が曖昧になることか」
短い肯定。
「じゃあ」
宮城が、震える声で言う。
「最終的に負けた県は……」
広島が、目を伏せた。
「……それは、死より残酷だ」
そのときだった。
「……あれ?」
沖縄が、自分の腕を見て呟いた。
光は、もう消えている。
だが、何かが違う。
「ねえ」
沖縄は、隣にいた鹿児島に声をかけた。
「さっきの話、聞こえてた?」
「……え?」
鹿児島は一瞬、困った顔をした。
「話?」
「鳥取のこと」
沖縄は言った。
「今の説明」
鹿児島は、首を傾げた。
「……悪い。何の話?」
空気が、凍る。
「おい」
福岡が声を荒げる。
「冗談やろ」
「冗談じゃない」
鹿児島は困惑していた。
「本当に分からん」
東京が、沖縄を見る。
「……沖縄」
「お前、今、自分が何者か分かるか」
沖縄は、答えようとして、言葉を失った。
名前は分かる。
自分が沖縄であることも分かる。
だが。
「……私」
「今、この場にいる理由が、うまく説明できない」
ざわめきが広がる。
愛知が、すぐに分析に入った。
「免除だ」
「沖縄は、ゲームから切り離された」
「切り離された?」
大阪が食い下がる。
「参加者としての権限を失っている」
愛知は淡々と続ける。
「記憶の共有、議論への影響、選択権」
「じゃあ」
宮城が息を呑む。
「沖縄は……」
「生きているが、関与できない」
その言葉が、ゆっくりと沈んでいく。
沖縄は、笑おうとした。
「なんだ、それ」
「助かったんじゃなかったの?」
誰も答えなかった。
「ねえ」
沖縄は、今度は大きな声で言った。
「私、ここにいるよね?」
視線が集まる。
だが、どこか焦点が合わない。
「いる」
東京が、強く言った。
「確かに、いる」
だが、その声は、“確認”ではなく、“言い聞かせ”だった。
声が、追い打ちをかける。
「……それって」
福岡が呟く。
「生き残り、やなくて」
「隔離だ」
北海道が、初めて感情をにじませた。
「檻に入れられただけだ」
沖縄は、ゆっくりと周囲を見渡した。
誰もが、どこか距離を取っている。
悪意ではない。
だが、確実に、同じ場所に立っていない。
「……そっか」
沖縄は、静かに言った。
「じゃあ私は」
言葉を探す。
「……観客?」
その瞬間、
沖縄の存在感が、薄れた。
目の前にいるはずなのに、
視線が、自然と逸れる。
「やめろ!」
大阪が叫んだ。
「そんな扱い、許されるか!」
冷たい声。
沖縄は、もう怒らなかった。
「ねえ」
東京に向かって言う。
「私さ」
東京は、答えようとして、詰まった。
名前を呼べない。
理由は分からないが、
呼んではいけない気がした。
「……お願いがある」
沖縄は、穏やかに言った。
「誰かが、次に選ばれるとき」
「“助ける”って言葉、使わないで」
「それ、たぶん」
「一番、残酷だから」
カウントダウンが、新たに浮かぶ。
第一試験、終了。
参加者数:四十六。
その数字を見た瞬間、
誰もが思った。
たった一人消えただけなのに、
もう、取り返しがつかない。
そして、
このゲームは既に、
最善を選んだ者から壊していくと。
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コメント
3件
沖縄よ…さようなら…(泣)