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#俺だけレベルアップな件
猫道
645
薙
5
猫道
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「どうしたよ、兄ちゃん。急に呆けた面して」
「は――?」
「だーかーら、リンガ、買うのか買わないのか」
「は――」
「リンガだよ!話しかけてきといて、急に目がイッちまうんだからビビったぜ。……で、どーすんだよ」
「あー、実は俺、一文無し」
「……んだよ、じゃあ、ただの冷やかしじゃねーか。」
手振りでその場からどかされて、素直にそそくさと移動する
彼、ナツキ・スバルはあたりを見回しながら
「え?え?――どゆこと?」
疑問と当惑に、問いを吐き出すのが精いっぱいだった
「えっと、なんだ!?」
その場で渾身の苦悩のポーズを披露するスバルに、周囲からの視線が集中する
「そう、数時間前……の、はずなんだが」
『少なくとも、日没だったはずだよね』
「腹の傷……ねぇな」
見たところ、あらゆる意味で万全の初期状態
「異世界召喚ってだけで俺のキャパ超えてんのに、どうすんだよ、この状態……」
傷の回復に関しては前例があるので、納得はいく が、 あれほどの傷が治るというのなら、死者蘇生の魔法があるとしか思えない
「命の価値がだいぶ薄れるが……」
そう考え込むスバルの横で、澪はひとつの結論に辿り着いてしまっていた
それは酷く哀しく、酷く残酷な結論だった
『昴は、死んで、タイムリープを果たした』
この一瞬でそこに辿り着くあたり、澪は頭の回転がスバルよりもかなり早いと考えてもいいだろう
「そうだ、サテラ!」
「サテラを頼むって……言われたんじゃねぇのかよ、俺」
『まず、そこの心配なんだね、昴』
「俺が生きてるなら、アイツらも生きてるはずなんだ…探さないと……」
「とにかく、今は……」
盗品蔵に向かおう、とスバルは判断する
だが、スバルのそんな勢い込んだ決断は
「よお、兄ちゃん。少し俺らと遊んでいこうや」
路地を塞ぐように立ちはだかる、三人の男によって邪魔される憂き目をみせた
『路地裏3人組…やっぱり、昴は…』
「おいおい、呆けた面してどうしたよ」
「状況がわかってないんだろ。教えてやったらいいんじゃないか」
恫喝に対して無反応のスバルを見て、男たちは嘲笑するように唇の端を歪める。
「お前ら……ひょっとして、俺の知らないところで頭でも打った?」
「似た顔の別人が三人揃って追い剥ぎ紛いをやってるって、あるかぁ?」
「頭打ったか……もしくはさっそくやられた復讐か」
「でも、ちょっとタイミングが悪いというか……」
「なに言ってんだ、アイツ。頭おかしいんじゃねえのか」
「とりあえず持ち物全部置いてけ。それで勘弁してやっから」
「ああ、はいはい。持ち物全部ね。急いでっから、それでいいや、ホント」
「あと犬の真似な!四つん這いで犬の真似して、助けてくださいーって鳴けよ」
『昴に変な口聞くな!』
「調子乗んなや、コラァ――ッ!!」
あまりに調子こいた発言が飛び出したせいで、堪忍袋の緒が千切れる
スバルは以前、ナイフによってスバルの猛攻をまんまと退けた男に狙いをつけた
「まずお前からだ!命を大切にしない奴は大嫌いだ!!」
掌底が男の顎を跳ね上げ、胴体に左の拳を打ち込み、男を撃沈
とっさの事態に反応が遅い他の男に対し、 相手の下半身目掛けて体ごと突っ込んだ 要領で男を担ぎ上げ、そのまま壁へ激突、 蹴りでトドメを刺し、振り返る
「っづ……てめえ」
「さあ、タイマンだ。ナイフも鉈も先に沈んでるが、お前はどうするよ」
「サシの殴り合いなら、俺も簡単に土下座してはやんねぇぞ」
「っざっけんな、なめんじゃねえよ、ガキが!!」
男は勢いに任せてスバルに飛びかかり、その体を壁際へと押しやろうとしてくる。だが、
「超絶、甘ぇ!」
「ひきこもりだからってなめんな。日々、木刀振って無意味に鍛えた俺の握力は七十キロオーバーだ。ベンチプレスも八十キロまでならいけんだぞ」
『役に立つかは微妙だとずっと思ってたけど、日本じゃないここでなら、多少は役に立つかもね』
手首を握り潰される感覚に男が絶叫したところに、スバルの膝が男を打つ
「死んでも恨むな。いっぺんやってみたかった、地べた上の裏投げっ!」
相手の腰に手を回し、その身をブン投げる
「この世に悪の栄えた試しなし!」
ガッツポーズを決めて、その場で勝利を祝うナツキ・スバル
「状況はなんにも変わってねぇけどな。とにかく、邪魔は入ったが盗品蔵に行かないと」
『死んではないみたいだし、行くなら行こう』
『昴が望むなら、盗品蔵でも地の果てでも、どこまで一緒に行ってあげるからさ』
「んじゃ、出発!」
と、意気込んだスバルが盗品蔵の威容の前に立ったのは、夕刻になってのことだった
「や、やっと見つけた……」
「行ったばっかなんだから余裕だと思ったんだけどなぁ……」
やはり文字が読めないのが、スバルにとって大きな障害となったのは事実だ
「ところどころでサテラとかパックと会話してたもんな。そりゃ道もうろ覚えだっつの」
『なにせ、地理にはすごーく疎いのが私の特徴だし』
なんでもできるかのように見える澪の唯一と言ってもいい弱点、それが救いようのない方向音痴だった
実際に澪にコッチだったと言われて進んだ先は全て行き止まりで、時間を無駄にした
そんなわけで、頑張った自分へのご褒美
「ついに開けるぜ、コーンポタージュ味。そもそも、俺はこれが食いたくてコンビニまで行ったんだっつの。」
スバルはそのお菓子の袋の口を開ける
「うめぇ……超うめぇ……! 考えてみたらなんにも食ってなかった。超うめぇ」
そうして空腹を誤魔化す一方で、スバルは自分の感情を誤魔化し切れないことにも気付いていた
――この盗品蔵の中に、スバルの求めている答えがあるのだ。
「ビビんな、ビビんな、ビビんなよ、俺。バカか……いや、バカだ、俺は。ここまできて答えを見ないでなんて帰れるかよ」
深呼吸して進む
「誰か、いますか」
儚い希望だと思いながらも、その木造の扉を軽くノックした
スバルは無駄だと知りながら扉を激しく叩く
「誰か……誰かいるだろ!頼むよ、返事してくれ……頼む」
スバルは戸が軋むほどに拳をぶつける
「――やっかましいわぁ!!合図と合言葉も知らんで、扉をぶっ壊す気か!!」
目の前の扉が勢いよく開いて、へたり込むように体重を預けていたスバルが吹っ飛ぶ
入口で顔を真っ赤にさせた老人がスバルを睨んでいる
大柄で、禿頭の老人だ
「なんじゃお前!何しにきたんじゃどうやってここに辿り着いた!誰の紹介じゃ!」
すさまじい勢いでジジイは距離を詰め、その巨大な掌でスバルを締め上げる
身長が二メートル近いジジイに担がれて、すっかり抵抗の気力もなく、
「お近づきの印に、おひとつどうぞ」
憤怒の感情一色の顔に向かって、コーンポタージュ味の菓子をひと欠片投げ込むのが精いっぱいだった
互いに猛烈な悪印象だっただろう出会いのあと、スバルは盗品蔵の中に招き入れられていた
「なんじゃさっきからもじもじしおって…」
「菓子袋返せ。全部やるとは言ってねぇ」
カウンターの向こうに立つのは大柄の老人だ
「なんじゃケチ臭い。こんなうまいもんをひとり占めなんぞ、地獄に落ちるぞい」
「そんなうまい他人のものを勝手に食うジジイは地獄に落ちないのか」
「またわからん言葉使いおって。これだから若い奴は……うまうま」
「食うなっつの!!」
身を乗り出して腕を伸ばし、どうにか菓子袋を奪い取るが、すでに 数個しか残っていない中を検めて、スバルは肩を落とす
「ああ……貴重なコーンポタージュが。もう二度と味わえないかもしんないのに」
「なんじゃ、そんな貴重な食い物だったか。なんじゃったら残りは複製魔法でも依頼したらどうじゃ」
「複製魔法?」
「ひとつの物を二つに増やす魔法じゃな」
『物知りだなぁ…そして魔法ってやっぱりすごいんだ』
夕刻の盗品蔵――そこに、スバルが味わった惨劇の跡は一切感じられない
そんなスバルの視線に気付いたのか、目の前の老人は目を細めて、
「なんじゃ小僧――盗品に、興味があるのか?」
と、こちらの核心を突いてきた
「ま、ここにくる奴の目的なんぞ二つにひとつ。盗品を持ち込むか、盗品自体に用があるか、そのどっちかじゃからの」
「確かに、目的の一個はそれだ」
「一個、か。んじゃ別の用件もあるってことじゃの?」
「馬鹿げた話なんだが……爺さん、最近、死んだことないか?」
ない、だろうね…戻っているのだから
と口にするのはやめた
まだ昴は気付いてない、この残酷な能力に
せめて、気付くまでは…と、澪は決意していた
「がははは、何を言い出すかと思えば。あいにくと死んだ経験はまだないな」
ロム爺は間違いなく生きている。そして、それは逆にスバルにも言えることだ
「あの感覚の全部が、夢だってのか……? どっからどこまでが夢で、俺はどうしてこんな世界にいるんだよ」
『夢じゃない…夢なら、私と昴の存在がおかしいから』
『昴の夢なら昴がその感覚のままなのはわかる、私の夢でもそう』
『でも2人なんだよ、2人同時に夢の世界にいるわけないでしょ…』
…確かにな…なら、どうして俺は生きている?
その疑問に、澪は答えなかった
答えられなかった
「なら、ここで銀髪の女の子を見てないか?」
「銀髪……?見とらんな」
がはは、とロム爺は豪気に笑い飛ばすが、それを受けるスバルの表情は優れない
その態度に真剣さを感じ取ったのか、ロム爺はぴたりと笑いを止めると、
「飲め」
と再びスバルの前にグラスが突き出されていた
「悪ぃけど、そんな気分じゃねぇよ。それに酒飲んで悪ぶるほどガキじゃねえんだ」
「グイッと飲んで、腹の内側を燃やしてみろ。熱さに耐え切れなくなって、色んなもんが吐き出てくる」
酒に逃げる、なんてのは格好悪い大人の代表格だと、そんな風に思っていたにも関わらずだ
「ええい……ままよ!」
『飲むんだ!?未成年飲酒ですよぉ、昴』
いいだろ、色々と吐き出したかったんだよ
!
『どーせ言うことなんて聞かないって知ってるから、特に驚かないけど!』
グラスを傾けて、酒を一気に喉に向かって流し込む
「っぷはぁ!マズイ!熱い!クソマズイ!んああ、マズイ!」
「何回も言うな、罰当たりが!」
「じゃが、いい飲みっぷりじゃった! ちったぁ吐き出せそうな気がするか?」
「……ああ!ちっとだけな!爺さん、もう一個の目的の方を果たすぜ」
「宝石が埋め込まれた徽章を探してる。それを譲ってもらいたい」
己の目的を言葉にして告げた
「宝石の入った徽章……いや、悪いがそんな品物は持ち込まれておらんぞ」
「……本当にか? よく思い出せよ。ボケてんじゃねぇのか、ガタがきて」
「酒が入って今が絶好調じゃ。この状況で出てこんのなら、知らんとしか言えん。」
「じゃが、今日は大口の持ち込みがある、と前もって聞いとる。十分に可能性があるじゃろうな」
「持ち込むのはひょっとして……フェルトって子か?」
「なんじゃ、相手の名前までわかっとるのか」
「持ち込まれてきたもんをお前さんが買い取れるかどうかはまた別の話じゃぞ?宝石付きの徽章となれば、それなりの値でさばけるだろうしの」
「ハッ!いくら足下見たって無駄だぜ。なにせ俺は一文無し!」
「話にならんじゃろうが!」
「ちっちっち。確かに俺は金はない。だ・け・ど!物々交換って手段があんだろ?」
スバルはズボンのポケットをまさぐった。そして、抜き出すその手が握るのは、
「なんじゃこれ。初めて見るの」
「これぞ、万物の時間を切り取り凍結させる魔器『ケータイ』だ!」
スバルは素早く操作を入力し、直後、薄暗い店内を白光が切り裂いた。
パシャリ、と効果音が鳴り響き、光を向けられたロム爺が大げさに驚く
「なんじゃ今のは!殺す気か!あまりジジイを舐めるでない」
「これを見てみろ」
スバルはずいと携帯の画面を押し付ける
ロム爺はその小さな画面に目を凝らして――その目を見開いた
そこに映っているのは、今しがた撮影したロム爺の顔だ
「これは……儂の顔、じゃな。どういうことじゃ?」
「言ったろ?時間を切り取って凍結させるって。この道具で時間を切り取って、閉じ込めたんだ」
言いながらカメラの向きを変えて自分を撮影、 ロム爺に再度画面を見せると、今度はピスバルの顔が画面に表示されている
「こんな感じで時間を切り取れるわけだ」
「なるほど……確かに、これは……ううむ」
「初めて見るが……これが話に聞く、『魔法器』というやつかの」
「魔法器?」
「誰でも魔法を使えるようにできるという道具のことじゃ。希少品じゃから、儂も見たのは初めてじゃがの」
「こいつの価値は確かに計り知れん。じゃが……これまでにない値がつくのは間違いない」
「それだけに、物々交換にこれを出すのは、お前さんに損が大きすぎる」
「この魔法器自体を売りに出した方がよっぽど得じゃぞ?」
「ああ、それでいい。この魔法器は、徽章と交換する」
「なんでそこまでする?」
「ぶっちゃけ、俺は丸損間違いなしだぜ」
「そこまでわかっとるなら、なんでそんなことする?」
「決まってんだろ。俺は損がしてぇんだよ」
ロム爺が目を白黒させるのをスバルは痛快な気持ちで見届ける
『昴らしいや、損がしたいとか』
「俺は恩返しがしたい。だから、大損してでも徽章を手に入れる」
「ふむ……つまり徽章はもともとお前さんのもんじゃないんじゃな?」
「俺を助けてくれた銀髪美少女の持ちもんだ」
「その恩人は?」
「目下、捜索中!っていうか、その美少女の存在自体も妄想かもしんない!」
そんなスバルを見下ろしながら、ロム爺は
「お前さん、相当なバカじゃのぉ」
と、あらゆる感情を吹っ切って、ただ楽しげに笑ったのだった
交渉は成立、携帯電話を手にしたロム爺はそれを確約してくれた
「儂が面倒みてやれるのはフェルトと交渉する場を用意することまで。その先はお前さんが交渉せいよ」
「ロム爺さんも、こいつの価値は保障してくれんだろ。ならきっと楽勝さ」
「ま、実際、その通りじゃろうな」
独特の符丁で盗品蔵の戸が叩かれたのは、日差しもだいぶ傾く時刻になってからだ
扉に耳を押し当て、ロム爺は神妙な顔つきで戸の向こうをうかがい、
「大ネズミに」
「毒」
「スケルトンに」
「落とし穴」
「我らが貴きドラゴン様に」
「クソったれ」
『これが合言葉かぁ、覚えとこっと』
満足げに戸の鍵を外すロム爺
「待たせちまったな、ロム爺。完全にまくのに時間かかっちまった」
見覚えのある少女の出現に思わず立ち上がるスバル
自分を見るスバルに気付き、少女はそれまでの笑みを消して胡乱な顔つきを浮かべた
「あ?誰だよ。おい、ロム爺。アタシは大口持ち込むから誰も入れとくなって言ったろ?」
「お前さんの気持ちはわかるがの、あの小僧っ子はお前と無関係ってわけでもない」
ロム爺の答えにますます顔を不審にしかめる少女――フェルト
「なんだよ、まさか、アタシを売ったんじゃないだろな」
「そんな義理に反する真似はせん。それにお前さんにとっても悪い話じゃないと思うが」
「とりあえず、落ち着こう。俺は君に悪意はなくて……おろろろろろろろろろろ」
こみ上げてきた吐き気に負けて全部口から出た
『だから未成年飲酒は禁止されてるのに…』
「「ぎゃあああああああああああああああ――!!」」
突然ゲロったスバルの醜態に二人の悲鳴が上がる
「なにがアタシにとって悪い話じゃないだ!最悪じゃねえか!!」
「最悪は儂の方じゃ!酒なんかたっかい!たっかいんじゃぞ!?」
「うるせぇ!叫ぶな!気持ち悪っ!マジ気持ちおろろろろろろろろ」
「「ぎゃあああああああああああああああ――!!」」
スバルが胃の中身を出し切り、スバルが出し切った汚物を掃除して、換気し終わるまで、その騒ぎは延々と続いた
「――それじゃ、気を取り直して交渉といこう!」
「アタシはアンタの持ってきた話が、金になるのかならねーのかにしか興味がない」
「んじゃま、交渉といこう。フェルト、徽章は持ってるな?」
「……ああ、持ってるぜ」
単刀直入に切り込んでみせるスバルに、短く応じるフェルトも素直な肯定
彼女は懐に手を入れると、そこから抜き出したものをテーブルの上に静かに置いた
「今度はそっちのカードを見せなよ。徽章はこんだけの出来で、アタシはそれなりに苦労させてもらった」
「それに見合うカードだと、お互いに嬉しいよな?」
「悪い笑顔でこっち試してみてるとこ悪いが、俺の出せるカードは一枚だけだ」
宣言通りに切れる最強のカードを切る
スバルは携帯電話のカメラ機能を起動
「NATUKIフラッシュ!!」
「うわ、まぶしっ!」
ピカッと光り、機械的なシャッター音が鳴ると画像が切り取られる
携帯の画面を彼女に突きつける
そこに表示された自分の姿に、少女の赤い双眸が大きく見開かれる
「これって……」
「そう、フェルトだとも!これは時間を切り取って映像を残す魔法器だ」
「その徽章と、こいつとで物々交換を申し込む」
「なるほど、そりゃスゲーな。で、ロム爺。この魔法器は売ったらどんなもんよ」
『とりあえずこの子はヒロイン枠ではなさそうだね、昴』
そんなこと聞いてねえよ!
『だろうね、ほら、フェルトちゃんが話すよ、ちゃんと聞いてなきゃ』
澪が急に話しかけてきたんだろ!ちゃんと聞くけど
「アタシとしてはそれがこの宝石付きの徽章より高いなら万々歳だ」
「数字でいくらになるかは想像がつかん、魔法器をさばいた経験はないしの」
「ただまあ、かなりの上物の徽章じゃが魔法器には劣るってのが結論じゃな」
「そっかそっか、ならま、いいんじゃねーかな」
それじゃ早速と手を伸ばしかけたスバルを「待った」とフェルトが制止する
「カードの切り合いは互いに終了」
「だけど、アタシの吹っかけはまだ終わらねーぜ?」
「……これ以上に釣り上げようって言われても無理だぜ。なにせ俺は天下無双の一文無し」
「徽章の価値よりこっちのが上、それは認める」
椅子に座るスバルを、立ち上がって見下すフェルト
「安心しなよ、アンタからこれ以上、巻き上げるつもりはない。アタシは金に代わればそれで満足さ」
「べべべ別に?動揺?とかしてねぇし?ビビる必要とかどこにもおろろろろ」
「必要以上に自分に負担かけて折れんなよ!吐くな!ご破算にすんぞ!」
自分で自分にかけたプレッシャーで吐きかけるが、口の中まで巻き戻ったリバースを再び胃へとリバース
「表持ってきたのが魔法器じゃなけりゃ、今のとこで表に蹴り出してるぜ」
「それ言い出したら最初に儂が殴り倒して終わりにしとったろーがな」
「で、吹っかけが終わらねぇってのはどういう意味よ?」
「簡単な話。アタシの交渉相手は兄さんだけじゃないってこと」
「そもそも、アタシがこの徽章を盗ったのは頼まれたからなんだよ。これ一個で、聖金貨十枚と引き換えるって話でな」
「盗みの依頼が先約かよ!相場がイマイチわかんねぇけど……」
「この徽章だと、儂ならうまく流して金貨四、五枚」
「なら、単純に買い取り価格は倍ってことか」
「いや、聖金貨と言ったじゃろ?価値的には金貨二十枚近くある」
「四倍強かよ!?」
「お前さんが持ってきた魔法器なら、最低でも聖金貨で二十枚。場合によってはもっと出す好事家もおるじゃろ」
「こっちのが高値がつくってんなら、盗みの依頼人にはなんて断るんだよ」
「だから、吹っかける」
「兄さんがこんなバカ高いもんを出したんだ。徽章が欲しいなら、あっちもそれなりの報酬を追加してくるかもしれねーだろ?」
「……つまり、アレか?聖金貨で向こうが二十枚以上出してきた場合は」
「兄さんはアタシに残りのカードも切って上乗せしなきゃ、勝負は成立しねーな」
『うーん、ちょっと雲行きが怪しくなってきたね』
「その依頼人ってのはどこで、いつ落ち合う予定なんだよ」
「一方的に兄さんが不利になるだけじゃ、アタシの儲けも減るかもわかんねーしな。交渉場所はここさ」
「お前、また儂に断りもせんで勝手なことを……」
「だってよー、ロム爺がいりゃ、大抵の相手から暴力って選択肢消せっからさ」
「仕方ないのぅ」
「最初からここにその相手を呼んでるってことは、値段交渉する気は満々だったのか」
「そらそーだろ。ひとりで相手して、踏み倒されたりしたらどーする」
「って言うか、お前ってば俺のことひょっとして覚えてないか?」
「どっかで会ったか?相当に印象強い出会い方してねーとアタシも暇じゃねーから覚えてねーよ」
「ま、フェルトの残念な記憶力はいいや。で、その待ち合わせ相手はいつくんだ?」
「日没後にここでって言ってたし…そろそろくるんじゃね?」
扉を鋭く、二度叩く音がふいに蔵の中に響き渡った
「たぶんアタシの客だし、見てくるわ」
「ま、付き合いも短くない……用心棒紛いの真似ぐらいしてやるとするか」
頼られるのが嬉しいお爺ちゃんが蔵の奥から棍棒を持ち出す
「やっぱ異世界でも棍棒って標準装備なんだな……」
「やっぱアタシの客だったよ。こっちだ、座るかい?」
それが交渉相手か、と心持ち緊張しつつ相手をうかがい、スバルは少し驚いた
フェルトが招き入れたその人物が、見目麗しい女性だったからだ
そしてまた別の理由で、澪は驚愕していた
「部外者が多い気がするのだけれど」
「踏み倒されたら困る、アタシら弱者なりの知恵だよ」
「そちらのご老体はわかるのだけれど、こちらのお兄さんは?」
「この兄さんはアンタのライバル。アタシのもうひとりの交渉相手さ」
と、宣言通りの吹っかけを始めたのだった
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続き待ってるヨォ
「うわぁ…第5話、一気に読んじゃったよ!!😭💕」 スバルがタイムリープ後の混乱の中でも必死に動いてるの、胸がギュッとなった…。特に「サテラを頼むって言われた」ってところ、まだ覚えてるんだなって思って泣ける。 ロム爺とのやりとり、コーンポタージュ投げ込むシーンめっちゃ笑ったんだけど、そこから一転してフェルトとの交渉になるところの緊張感がすごい!「天下無双の一文無し」って言い切るスバルかっこよすぎじゃない?? そして澪が「死んでタイムリープ」に気づいてるのに隠してるの…この後どうなるの!?続きが気になって仕方ないよ〜!🌸✨