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「お邪魔します…」
「どうぞ」
ガチャリと鍵をかける音が妙に生々しく、びくりと体が強張った。
「先に俺の部屋に上がってて。飲み物用意してくるから」
「は、はい」
リビングの方に行ったクロノアさんを見送り、重い足取りで彼の自室へ向かった。
────────
「失礼します…」
相変わらず整頓されていて綺麗な部屋だ。
勝手に座るのもおかしい気がして、本棚に入っている本をパラパラと捲る。
「……」
見たことない顔だった。
俺にはきっと隠している顔。
「……」
それを全部、ぶつけて欲しいって思うのは我が儘なのだろうか。
「いや、無理か」
クロノアさんは俺に触るのが嫌なんだから。
「何見てるの」
「うわっ」
振り向くとクロノアさんが立っていた。
「びっ、くりした…」
「本?」
「あ、ごめんなさい。勝手に…」
持っていた本を戻そうとすると、その手にクロノアさんが手を重ねてきた。
「こっち」
「っ」
本を戻したあとも背後から壁ドンのように囲い込まれて逃げられない。
顔を見るのも怖くて、じっと目の前の本のタイトルを見る。
「トラゾー」
「はひ…っ」
思ったより近いところで声をかけられる。
「こっち向いて」
「ぁ、は、はい…」
恐る恐る振り向く。
「ぅ…」
泣きそうになって、じわりと目頭が熱くなる。
と、つい、と目元を撫でられた。
「ごめんね、こんなに泣かせるつもりなかったのに」
「ぇ…」
「俺、傷付けたくないんだよ。トラゾーのこと」
「…?」
「俺だって男だし、欲はあるよ。けど、トラゾーの思ってるものとは違う。もっともっと重くて汚い。啼かせて、傷付けて、俺のことだけしか考えられなくしてやりたい。閉じ込めたい、縛り付けておきたい、俺だけのモノだって刻みつけたい」
饒舌に語り始めるクロノアさんの目は昏い。
「体に俺のモノだって痕をつけたいし、一生消えないようにだってしてやりたい」
「クロノア、さん…」
「きっと、手加減できなくなるから無理なんだ」
ほっぺを包まれる。
「大切にしたいんだよ。トラゾーのこと、大好きだから」
「ぁ」
困った顔をして笑っていた。
こんなに自分のために我慢してくれていたのに、俺は酷いことをしていたんだ。
「今日だって、家に連れ込んで酷いことしようとしていた。けど、トラゾーにこんな感情ぶつけていいわけないから…」
「クロノアさん」
俺のほっぺを包む大きな手に自身の手を重ねる。
「ぶつけて欲しいです」
「え…?」
「俺、嫌われたのかなって思って、俺じゃダメだから触ってくれないのかなって…」
「そんなわけない。俺がトラゾーを嫌うなんて有り得ないよ」
「だったら触ってほしいです…。じゃなきゃ、不安で……俺、クロノアさんになら何されたって…うわっ」
クロノアさんが俺を抱きしめた。
「我慢しないよ」
眉を下げ、俺を傷付けまいとする表情。
「しないでください」
「手加減だってできないよ」
「しなくていいです」
「泣かせると思う。ううん、泣かせる」
「大丈夫です」
「…傷付ける」
「傷をつけてほしいです」
「………いいの」
「いいです。俺だって、クロノアさんに我慢させて傷付けてました。…だから、俺に全部ください」
腕を引かれて、横のベッドに倒された。
「嫌がっても、やめないよ」
「やめないで、ください」
上に覆い被さるクロノアさんを抱きしめる。
「だって、俺、すごく嬉しい…ッ」
色々と溢れ出る感情に蓋ができなくて、涙と共に言葉が出た。
クロノアさんは目を見開いて、優しく笑った。
「うん、俺も嬉しいよ」