テラーノベル
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「大トリって、番組の一番最後やろ? ……なんで、そんなヤバい顔しとるん」
リハーサル後のスタジオ裏。
パイプ椅子に腰掛けたリコが、不安を隠すように軽い調子で言った。
寿司子は、本番準備中のステージから漏れてくる喧騒を聞きながら、静かに答える。
「番組のトリってさ…… 本来、一番の実力者が立つ場所なんだよね」
リコが瞬きをする。
「盛り上がった会場の空気を、最後にガシッとまとめて締める。 それが役割」
「ほな、ええポジションやん」
「ううん、逆」
寿司子は、自分の膝に視線を落とした。
「前が全部盛り上がって、最後に私たちが出てきてスベったら? 『今日はイマイチだったな』って、最悪の記憶で上書きされる。 全責任を背負わされるポジション……」
リコが、息を呑む。
「……全部、ウチらが持っていってしまうってことか」
「そう。良くも、悪くも」
寿司子は小さく息を吐いた。
「だから普通は、絶対にハズさない大御所を置くはずなんだけど……」
リコは、乾いた笑いを浮かべた。
「はは……よりによって、ウチらか…
えらい買われたもんやな」
少し離れたところで、揉めている気配があった。
本来トリを務めるはずだったベテランのモノマネ芸人が、藤原Pに詰め寄っている。
声は聞こえない。だが、激しい身振りだけで不満は痛いほど伝わってきた。
藤原Pは、終始、冷徹なほど落ち着いていた。
最後に、その芸人の耳元へ何かを囁く。
一瞬、芸人の表情が凍りつく。
怒りでも、安堵でもない。
「納得」と「諦め」が混ざり合った、歪な顔。
やがて彼は背を向け、通路を歩いてくる。
寿司子たちの横を通り過ぎる、その一瞬――視線がぶつかった。
そこにあったのは、形容しがたい感情。
だが、ひとつだけはっきりしている。
――それは、明らかな「哀れみ」だった。
何も言わず、彼は去っていった。
寿司子は、胸のざわつきを抑えられなかった。
(……今のは、どういう意味?)
やがてスタジオが暗転し、スタッフの声が響き渡った。
「それでは本番、いきまーす!」
──続く