テラーノベル
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「それでは本番、いきまーす! 五秒前!」
スタジオが暗転する。
『バズれ!モノマネ・オン・ステージ!』
きらびやかな電飾が走り、司会の大声が番組の幕開けを告げた。
ADが腕を振って、観覧席から盛大な拍手が沸き起こる。
サブモニターに映し出されるモノマネ芸人たちの姿。
イナリズシの出番は最後。
まだ、時間はある。
スタジオの端で出番を待った。
序盤に登場した、ある若手は、ほとんど勢いたけの素人芸に近かった。
似ていなくても、スベってもスタッフの合図で笑いが起きる。
ADの腕がぐるぐると回る。
それに合わせて、笑い声が綺麗に揃う。
(……リハの通りだ。全部、演出……)
寿司子は、どこか冷めた気持ちでそれを見ていた。
だが、あのベテラン芸人がステージに立った瞬間、空気が一変する。
有名ドラマの台詞を発しただけで客席が沸いた。
似ている。
間、声の掠れ、立ち姿の重心。
主演の有名俳優になりきっている。
そして、その俳優がやりそうにない事をやって笑いに変える。
何より、台本にはない「笑い」を、自分の腕で捥ぎ取っていた。 合図なんてなくても、爆笑がスタジオを揺らす。
(……すごい)
寿司子は、知らず息を呑んでいた。
モノマネ。
どこかで「似せるだけ」だと思っていた。
けれど、目の前にあるのは、研ぎ澄まされた「芸」そのものだった。
(やり方次第なんだ。 どんな笑いだって……)
凝り固まっていた意識が、静かに形を変えていく。
「イナリズシさん。準備お願いしまーす」
スタッフの声がかかる。
いよいよだ。
「リコ、行くよ」
「おうよ。かましたろ」
寿司子は初めて、相方を呼び捨てで呼んだ。
リコは嬉しそうに口角を上げる。
二人は強くハイタッチを交わし、ステージ裏へと向かった。
「さて、いよいよ今夜最後のバズりモノマネです!」
「あの大人気アイドルグループの完コピ!
番組初登場、イナリズシ――!」
『レトルトパック・ラブ♪』のイントロが鳴り響く。
二人が眩い光の中へ躍り出た瞬間、
客席から、予想を上回る大歓声が上がった。
「似てるー!」
「かわいい!」
「えっ、本物じゃないの!?」
押し寄せる熱風のような声に、寿司子は一瞬、戸惑う。
――これは、笑いへの反応じゃない。
けれど、拒絶できないほどの、純粋な熱量。
リコは、春の☆湯煎式リーダー『アカネ』役として、センター『リソ』役の寿司子をフォローする。
歓声が最高潮に達し、曲の終盤へ。
コントパートに切り替わる、その直前。
寿司子は、決めポーズをしながら、客席の奥へと視線を突き刺した。
身体が熱い、喉の奥がひりっと乾く。
ここからが、私たちの本当のステージだ。
――続く
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