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kaede🍁
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夜になり。
目黒は一人、魔王城へ向かった。
大きな扉を開ける。
「……あべちゃん」
広い玉座の間。
長い階段の先にある椅子に、阿部は一人で座っていた。
黒いローブとワンピース。
魔王というにはあまりにも可愛らしい姿だった。
けれど。
阿部の顔は、今にも泣き出しそうだった。
いや。
もうずっと泣いていたのだろう。
目元が赤くなっている。
目黒はゆっくり笑った。
「助けに来たよ」
「……めめ?」
阿部の目から、また涙が溢れた。
次の瞬間。
勢いよく玉座から立ち上がる。
階段を駆け下りて。
そのまま目黒へ飛び込んだ。
「わっ……」
目黒はしっかり受け止める。
ぎゅっと。
阿部が縋りついてきた。
「怖かった……」
「うん」
「夢、覚めなくて」
震えた声だった。
「うん」
「俺、死んじゃったのかと思った」
「……そっか」
阿部の腕が目黒の背中へ回る。
離れないように。
確かめるように。
強く抱き締められた。
「もう会えないかと思った……」
目黒の胸が苦しくなる。
前の魔王から事情を聞いている。
本当は全部知っている。
それでも。
こんなに心細そうな阿部を見ると、今すぐ安心させてあげたかった。
「大丈夫」
目黒も強く抱き締め返す。
「ちゃんと迎えに来たから」
「……。」
阿部は目黒の胸元へ顔を埋めた。
黒いローブに包まれた小さな身体。
世界中のモンスターを倒して回った魔王とは思えない。
今はただ。
大好きな人を見つけて安心している阿部だった。
「……遅いよ」
「ずっと待ってた」
目黒は優しく頭を撫でる。
「寂しかった?」
「……寂しかった」
「怖かった?」
「怖かった」
阿部が何を言っても全部受け止める。
これがお仕置きの一つだと知っていたが、目黒にとっては幸せな時間だった。
___________
しばらく抱き締めてから。
目黒が言った。
「あべちゃん、帰ろう」
阿部は何度も頷いた。
「帰りたい」
「めめと帰りたい」
その言葉に、目黒は優しく笑った。
「じゃあ行こう」
「……うん」
阿部の手を取る。
そして。
目黒は玉座へ向かって歩き始めた。
「めめ?」
阿部も涙を拭いながらついてくる。
目黒は知っている。
この玉座の下に。
二人が現実へ帰るための剣が隠されている。
そして。
その剣で――
魔王である阿部を倒さなければならない。
目黒は阿部の手を握ったまま、玉座を見つめる。
さっきまで泣きながら自分を待っていた阿部。
『もう会えないかと思った』
そう言って。
あんなに強く抱き締めてきた阿部を。
これから自分の手で倒さなければならない。
目黒は小さく息を吐いた。
――絶対、怖い思いはさせない。
それだけを決めて。
何も知らない阿部の手を握ったまま、玉座の下へ続く秘密の扉へ向かった。
___________
二人で、玉座の下に隠されていた階段を下りていく。
目黒は絶対に離れないように、阿部の手をしっかり握っていた。
「……めめ」
「現実の俺、生きてる?」
その声は不安そうだった。
目黒は繋いだ手を強く握る。
「帰れば分かるよ」
「大丈夫」
少しでも安心してほしかった。
阿部は小さく頷いて、目黒の手を握り返した。
___________
階段の一番下。
二人は小さな部屋へ辿り着いた。
部屋の中央には、一本の剣が突き刺さっている。
阿部が呟いた。
「勇者の剣」
「そうみたいだね」
目黒が近付き、柄を握る。
剣を引き抜いた瞬間、眩しい光が地下室を照らした。
阿部は光り輝く剣を見つめる。
そして、気付いたようだった。
自分は魔王。
目黒が持っているのは、勇者の剣。
「……俺、倒されないと帰れないんだ」
阿部は少し考えて。
ぽつりと呟いた。
「俺、倒されたらお仕置き受けないと」
目黒は笑いそうになった。
そのお仕置きの内容なら、もう知っている。
現実へ戻ってからが楽しみになっていた。
「どっちにしろ、お仕置きは確定でしょ」
「悪いもの食べて、具合悪いのに一人で寝たんでしょ?」
阿部が目を逸らす。
「……ごめん」
何も言えなくなった阿部を見て。
目黒は優しく笑った。
「帰ったら話し合いだね」
「……それがお仕置き?」
「さあ」
「怖いんだけど」
「大丈夫」
目黒が少し笑う。
何も知らない阿部には申し訳ないけれど。
少しだけ、このまま内緒にしていたかった。
___________
「帰ろう」
目黒は勇者の剣を構えた。
その剣先をゆっくり阿部へ向ける。
「あべちゃん」
「準備はいい?」
阿部は剣を見て、それから目黒を見た。
小さく笑う。
「いいよ」
そして。
静かに目を閉じた。
目黒はそんな阿部を見つめる。
「じゃあ」
一度だけ息を吸って。
優しく言った。
「帰ろう」
勇者の剣が魔王を倒した瞬間。
眩しい光が地下室いっぱいに広がった。
阿部の身体が。
足元から少しずつ光へ変わっていく。
阿部が目黒へ手を伸ばした。
その手を目黒は迷わず握る。
指を絡めて絶対に離さないように。
「大丈夫」
身体が光になっていく阿部の手を握ったまま、目黒は笑った。
「すぐ会えるよ」
「……うん」
「起きたら、俺がいるから」
阿部も安心したように笑った。
二人を包む光がさらに強くなる。
繋いだ手の感触が消える、その瞬間まで。
目黒は離さなかった。
そして。
二人は光に包まれ――
現実の世界へ帰っていった。
夢から覚めれば。
きっといつものベッド。
隣には大好きな人。
そして阿部はまだ知らない。
目黒が最初からこの異世界にいたことも。
現実へ戻った瞬間から、一週間の甘すぎる『お仕置き』が始まることも。
コメント
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うわああ、第5話「勇者モード」、読み終わりました……!いやもう、最初から最後まで切なくて温かくて。阿部ちゃんが「めめ」に飛び込むシーン、本当に涙腺に来ました。あの「怖かった」が全部物語ってる。そして目黒が全部知ってて、それでも優しく「帰ろう」って言う――その選択の重さがすごく伝わってきました。お仕置きの設定も、二人の絆を感じさせる伏線になってて素敵です。