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「じゃあ、早速始めるぞ」
今日の宿題は数学のテキストと古文の読解問題だった。
「圭ちゃんの答えを写させてくれればいいのにさぁ。ホントめんどくさい!」
マナはブツブツと独り言のように呟いていた。
「さっさとやるぞ!」
「あっ、あのさ――お腹痛くなってきたからトイレ行ってくる」
「わかった」
そしてマナはトイレに行くという理由をつけて、宿題から逃げ出そうとする。
プルルルル――プルルルル―――
『もしもし――』
『圭ちゃん、私急用ができたから先に帰るね』
『宿題はどうするんだよ?』
『う~ん――圭ちゃん、暇ならやっといて!』
『お前なぁ――荷物はどうするんだ?』
『悪いんだけど明日学校に持ってきて』
『はぁ?』
『じゃあね、急いでるから電話切るね』
『おっ、おいっ――』
プッ!?
プーープーープーー
またやられた。どんな手を使ってくるのか待ち構えてはいたけど、みすみす逃してしまった。このように、マナは俺の隙を狙い、宿題をわざと置き去りにして逃げ出すという最悪の行為におよぶ。今までに逃げられた数は計り知れない。だから今現在、マナの宿題の8割は俺がやっているような状況だ。〝マナに甘すぎる〟〝甘やかすな〟〝あんなクズとつるむな〟〝もっとまともな人間と付き合え〟などと色んなことを周りの人間から言われたものだ。俺だってマナがとんでもないバカで、救いようもないくらい落ちこぼれだということもわかっている。わかっていて友達として付き合っている。そんな俺も悪いのだが――。これからも俺がマナを助けて行くつもりだ。どうしてそこまでする? と聞かれたことがあるけど、俺自身わからない。俺自身何もわかっていないのに、周りの人間の中には勝手なことばかり言う奴もいる。〝明石と五十嵐は付き合ってる〟〝明石は五十嵐のことが好きなんだ〟〝五十嵐の親父が都議会議員のお偉いさんだから将来のために媚びへつらっている〟などと言われていた。別になんと言われようが構わないし、言いたい奴には言わせておけばいいと思っている。自分でも自分のことがわからないのに、俺をわかったような気になっている奴らにとやかく言われる筋合いはない。
そんな味方とも敵とも言えない連中は捨て置き、こんな俺にも心を通わしてくれる友人が少しはいる。それは俺が中学2年の時に転校してきた成宮ゆずき。ゆずきは家庭の事情で俺たちが住む街に引っ越してきた。後々わかったことだけど、ゆずきの両親が離婚をしたため、ゆずきと3つ歳の離れた妹と母親の3人で、この地に移り住んできたようだ。転校してきたばかりのゆずきは口数も少なく殆んど笑顔を見せなかった。誰とも話そうとしなかった。というより、むしろゆずきの発するオーラが誰も近付かせなかった。普通なら外から来た転校生には、クラスの連中が気を遣って話しかけたりするものだが、ゆずきに対してはそんなものは全くなかった。そんなんだから1ヶ月経っても、2ヶ月経っても友達と呼べる人間は1人もできなかった。そんなゆずきだけど、見た目は綺麗で大人っぽく、身長は178㎝ある俺と殆んど変わらない。こんなにも恵まれた容姿に生まれてきたのに、目つきが悪く無口で笑顔もないので、どこか不機嫌で怒っているように見えてしまう。確かに、近付き難い存在ではあるけど、俺にはそんなゆずきが妙に気になったというか、興味を持った。だから気付くとゆずきに話しかけていた。最初は嫌な顔をされるんじゃないかと心の中では多少心配もあったが。とは言っても、大抵テレビドラマだと話しかけてみると意外にいい奴で直ぐ仲良くなるような展開になる。―――はず。