【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
この言葉に見覚えのない方はブラウザバックをお願い致します
ご本人様方とは一切関係ありません
小児科医青×天才外科医桃
小児科の看護師水さん
のお話です
今回モブ女子が出てきますので苦手な方は自衛してください…!
青視点
下の名前を耳にしただけでは分からなかったけれど、レジデントだと聞いて一人思い当たった。
確かに最近思い悩んでいるのか、随分ふさぎ込んでいるように見えた子がいる。
誰かに声をかけられたら力なく笑い返しはするけれど、心の底からは笑っていないような…どこか遠い目をしている子だった。
仕事以外の話なんて、取るに足りない程度の雑談くらいしか交わしたことがない。
悩んでいるのが仕事のことなら何とかしてあげたいとは思うけれど、プライベートな領域ならお手上げ状態だ。
それでも放っておくこともできず、まずは思いつく場所に顔を出してみた。
外来の診察室…病棟には姿が見えない。
検査室や医事課にはさすがに用がないだろう。
昼休憩中ならと最上階の食堂や病院裏手に来るキッチンカーまで探してみたけれど、どこにもいなかった。
「……」
吐息まじりに前髪を掻き上げ、診療棟の階段扉を開く。
非常階段というわけではないけれど、その棟の一番奥にある階段だから患者も職員ですらもほとんど使うことがない。
そこから下の階に下りて、医局の方へ一旦戻ろう。
そう思って階段を下り始めた。
静かな空間に、自分の靴音だけが響き始める。
1階分下りた辺りだろうか、急に「ずず」と鼻をすする音が聞こえてきた。
誰もいる気配がないと思っていた俺は目を見開いたけれど、そこにいた人物も同じように驚いて肩を強張らせた。
壁に向かっていた体を捻る形で、上半身だけでこちらを振り返る。
後ろで束ねた肩より少し長い髪が、それに応じるように揺れた。
「…いふ…先生…」
ほとけが「まゆちゃん」と呼んでいた、うちの科のレジデントに間違いなかった。
…こんなとこで泣いていたのか。
そう思いながら残りの階段をゆっくりと下り始めた俺を見て、彼女は慌てて自分の顔を手の甲で拭き始める。
「あ、すみません…すぐ戻ります…!」
「いいよ、昼休憩中やろ? まだ大丈夫やから」
言いながらポケットの中からハンカチを取り出して差し出した。
恐縮するように身を縮めて受け取った彼女は、顔を深く俯けたままだ。
…さて、どうしたものか。
考えながら、これまでの彼女との会話ややり取りを可能な限り思い出す。
そうすれば彼女が「聞いてほしいタイプ」か「そっとしておいてほしいタイプ」か見えてくる。
刹那でその判断を下し、身長がそれほど高くない彼女に合わせるように少しだけ体を屈めた。
「俺でよければ、話聞こうか?」
彼女は多分、「聞いてほしいタイプ」だ。
ほとけもそう判断したからこの子を探していたんだろうし、俺にわざわざ言いに来たんだろう。
そう言われた彼女の方は、今度は目を丸くした。
大きな黒い瞳が、浮かんだ涙できらりと光る。
相手が相手なら、それをきれいだと思ってしまったかもしれない。
「…あ、ありがとうございます…大丈夫、です」
本来は「聞いてほしいタイプ」なのかもしれないけれど、さすがに急にそこまでは無理か。
渡したハンカチで目の淵を拭う彼女は、ためらいがちにようやくそれだけ言葉にした。
それきり流れる一瞬の沈黙。
無理に聞き出すことはできないけれど、「あぁそう」と引いてしまうのも尚早すぎる。
そう思って思考を巡らせていたけれど、やがて彼女が言葉を継ぐ方が早かった。
「…あの、いふ先生にお願いが一つあって……」
「うん?」
何か一つ思いついたのか、彼女の方がそう申し訳なさそうに続けた。
威圧的にならないようにできるだけ穏やかな声で相槌を打つ。
無言で先を促すと、ハンカチをぎゅっと握りしめた彼女は勇気を振り絞るようにようやく目線を上げた。
「実は…私、他の病院で心療内科に通ってて」
突然のカミングアウトには職業柄慣れている。
動じず、特別な反応もせずにただ聞くことに徹する。
小さく頷いただけの俺に、彼女は先を続けた。
「不眠症なんです。最近忙しくて薬も取りに行けてなくて……そのせいでちょっと体調も悪くなってて」
「…そう」
「そこで処方されてるのと同じ薬でいいので、先生出してもらえませんか…」
懇願するような言葉は、俺からしたら特別難しいことではない。
だけどそれを俺に告げるのに彼女がどれだけの勇気が必要だったのかを想像すると、まるで自分のことのように少しだけ胸が痛んだ。
「ん、いいよ。薬の手帳は持っとる?」
「…はい」
「同じ薬でいいん?」
「それがあれば眠れるので…」
「処方箋出すから、職員外来の受付でもらって。とりあえず一旦診察室に戻ろうか。カルテに書き込まないかんし」
そう答えて見つめ返した彼女は、一つ不安が消え去ったのか少し安堵した表情を浮かべていた。
涙は一旦引っ込んだのか、目は少し赤く見えるだけ。
「すみません」と小さく頭を下げる彼女を促して、俺は先に白衣の裾を翻した。
階段を下り始めると、彼女は力ない足取りでそれでもついてくる。
いつもよりゆっくりとした歩調で踵を鳴らすと、数段下りた辺りで上からぽつりとした声が降ってきた。
「…ありがとうございます」
絞り出すような囁き声に、俺は彼女より3段ほど下で足を止めた。
振り返るとまた涙をこらえているのか、眉間にぐっと皺を寄せた表情と目が合う。
…いや、目が合ったと思った瞬間にすぐに逸らされるけれど。
「いふ先生は…本当にすごいと思います。それに比べて自分は仕事で何もできてないし、それどころか体調管理も…自分の心ですらままならないし…」
…多分、まだ駆け出しのレジデントからしたら医師は立派に見えるんだろう。
そう褒めてもらえるほど自分だって偉いわけではない。
ただ周りに対して、本音と辛さを曝け出さない術を身に着けただけだ。
根本的なところはきっとそれほど大差はない。
自惚れるわけではないけれど、今正確に理解した。
研修医という立場で仕事に思い悩んだとき、誰かに救いを求めたくなる彼女の心情。
そしてそれを読み取っていたからこそ、ほとけが俺を呼びに来たこと。
ただ、ほとけが考えたように彼女は本当に俺のことが好きなわけではないと思う。
ただ精神的に辛いとき、誰かに寄り掛かりたかった。
それはきっと人間の本能に近い。
そしてその相手が職場の先輩ともなれば、尊敬を恋情とはき違えることもあるんだろう。
「そんなに立派な人間ちゃうよ、俺」
柔らかく笑って返して、ただはっきりと線は引かせてもらう。
相談に乗れるなら仕事面でのケアは俺の仕事だけれど、それ以上は求められてもどうしてやることもできない。
穏やかな声音とは裏腹なその言葉の意図を汲み取ったのか、彼女が一瞬だけ息を飲んだのが分かった。
それに気づかないふりをして、俺は再び階段を下り始める。
「…あっ」
だけど次の瞬間、上から焦ったような小さな声が耳に届いた。
それと同時に、ずるりと何かが滑る音も。
驚いて振り向いた俺の視界に、足を踏み外したらしい彼女が倒れ込んでくるのが映る。
「…っあぶな…っ」
睡眠不足と体調不良から、眩暈でも起こしたんだろう。
手すりを右手で掴み、左手で落ちてきた彼女の体を抱き止めた。
ちゃんと食べてるのかと訝しく思うほど細い体。
抱き慣れたあいつの細さとは似ても似つかない肢体だが、受け止めるとなるとそれなりに力が必要だった。
自分も階段から落ちそうになるのを堪えながら、ぐっと手すりを掴む手に力をこめる。
それと同時に少し崩れたバランス。
カシャンと足元で音がしたかと思うと、踏ん張ろうとした足の下でパリンと嫌な音がする。
そんな中、何とか持ち直した態勢で彼女の体を階段の段差に押し戻した。
「す、すみません…!!」
階段にそっと尻もちをつく態勢になった彼女は、更に青ざめた顔でこちらを見ている。
「あー俺は大丈夫。怪我ない?」
手すりと彼女から手を離しながら尋ねると、また大きな瞳が涙で潤んでいく。
その目が、次の瞬間には俺の足元に視線を注いだ。
「先生、眼鏡…!!」
「あーうん、完全に踏んだな、自分で」
ふふ、と笑いながら足元を見やると、バランスを崩したときにずり落ちた眼鏡は盛大に自分の足の下敷きになっていた。
レンズだけならともかく、フレームも曲がってしまっている。
「弁償します!」
「いいよいいよ、別に大して高いもんでもないし」
「でも私のせいで……!」
申し訳なさそうに顔を歪めた彼女は、慌てて眼鏡の破片を拾おうとした。
それを片手で制して、「危ないからいいよ」と口にする。
「でも…!」
「清掃の人に頼んどくから、大丈夫。眼鏡もなくても大して困らんし」
「見えないじゃないですか…! あ、じゃあ私今日帰るまで先生の目の代わりになります…! おうちまでお送りしますし…!」
えぇ…何この展開。どこかの誰かさんが笑いながら読んでいた少女漫画に似た展開なかった?
なんて心の中で揶揄するのは、さすがに失礼かと思ってやめた。代わりにもう一度唇の端を緩めて笑う。
「それも大丈夫。これ伊達眼鏡やから、度入ってないし」
「…え、伊達…?」
「そう」
視力は決していい方ではないけれど、何なら普段はコンタクトレンズを入れている。
眼鏡には全く度が入っていない。
それを告げられた彼女は、ぱちぱちと深く瞬きを繰り返した。
「高校生のときかな、興味本位で人の眼鏡借りてかけたときに言われたんよ。『眼鏡似合う、かっこいい』って」
「……」
「好きな子にそれ言われて、真に受けて未だに伊達眼鏡かけるくらいにはしょーもない男なんよ、俺。君に『立派』とか言ってもらえるほど大した奴じゃないから」
改めて引いた彼女との間の「線」に、向こうがぐっと息を詰めたのが空気を介して分かった。
それにもう一度気づいていないふりをして、再び身を翻す。
「行こうか、ゆっくりでいいよ。足元気を付けて」
また眩暈を起こすかもしれない彼女に対して、手を差し伸べることもしない自分は冷たい人間だろうか。
手すりと壁を力なく支えにする彼女がついてこれる最低限の速度で、俺は再び歩き出した。
(続)
コメント
4件
青さん中身も見た目も紳士イケメンなの好きすぎる( ु ›ω‹ ) ु♡ やっぱり青桃は尊いですね💕︎ こんなに凄い神作無料で見させていただいて…✨️( *´꒳`* ) 幸せだ~ෆ˚*
青さんが桃さんのことを思って関係?に線を引いてるのが尊い!! (あと今まですみませんでした! ばりばりコメントで名前を出していました💦)