テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
20XX年 1月1日。
新年の凍(い)てつくような空気の中、街は「おめでとう」という記号に溢れていた。
テレビの中では芸能人が騒ぎ、SNSには豪華な御節の画像が流れ続ける。
その狂騒の裏側で、一人の女性が警察署の重い自動ドアを押し開けた。
彼女の指先は、凍えているのか、それとも事後の硬直か、白くこわばっている。
「あの、人を刺しました。殺したんです。自首しに来ました」
受付の巡査は、新春特番の音量を下げ、ひどく面倒そうに顔を上げた。
刑事「自首?……あー、今日は当番制で人手が足りないんですよ。少し待ってもらえますか。今、酔っ払いの対応で手が離せなくて」
命を奪ったという告白すら、新年の「イレギュラーな業務」として処理される。
━━━━━━━━━━━━━━━
狭い取調室。パイプ椅子の冷たさが、彼女の太ももに刺さる。
対面に座った刑事は、欠伸を噛み殺しながらタブレットにペンを走らせていた。
刑事「ええと、昨日の夜……紅白が終わる頃ですか。居間で寝ていた相手を刺したと。包丁は、100円ショップの安物ですか? それともブランド物?」
彼女は、あまりの事務的な問いに一瞬戸惑い、それから答えた。
「通販で買ったよく切れる牛刀です。あいつが酔い潰れて、牛のように寝息を立てている間に。
まず下腹部を。それから心臓。何度も、何度も。
あいつの血が、私が半年かけてローンで買った高いラグを汚していくのを見て、『ああ、これでやっと掃除が終わる』って思ったんです」
刑事は、彼女の殺意よりも「凶器の入手経路」や「損害額」を確認するような手つきでメモを取る。
刑事「バラバラにしたと言いましたね。理由は何です?」
「重かったからです。…一人の人間として扱うには、あいつは重すぎた。
だから、パーツに分けたんです。腕、足、首。
関節に刃を入れると、驚くほど簡単に『モノ』に変わりました。
自治体のゴミ袋の指定サイズに合わせて、50センチ以下に切り刻んで。
庭に埋めました。肥料にでもなれば、あいつの人生で初めて社会の役に立てるかと思って」
刑事「……なるほど。バラバラにしたなら、遺棄の件数は部位ごとにカウントされるかもしれないな。事務処理が面倒になる」
刑事が吐き出した言葉には、被害者への哀悼も、加害者への怒りもない。ただ「仕事が増える」という落胆だけがあった。