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食事会からこっち、戸崎が私たちの両親と打ち解けるのは早かった。
週末のデート帰りには時折、柚乃を送り届けがてら我が家に立ち寄り、一杯程度のお茶を飲んでいくこともあった。
大抵それは夕方だった。彼の来訪が事前に分かっている時、あえて自宅にいないようにしたのはもちろんだが、私にとっては予想外の訪問だった場合にも、タイミングを見計らって外出するなどして、彼とはできるだけ顔を合わせないように、仮に会わざるを得ない場合でもほんの数秒程度で済ませるようにしていた。
そうやって、彼との遭遇をなんとかうまくかわし続けていたある日のことだ。
入浴を終えた私は、リビングで寛いでいた柚乃と両親に寝る前の挨拶をして、二階の自室に向かった。
「待って、詩乃」
背後から私を呼ぶ柚乃の声が聞こえたのは、ドアノブに手をかけた時だった。
私はドアノブから手を離し、ぎこちない動きで柚乃の方に向き直った。
柚乃は息を軽く弾ませていた。どうやら階段を駆け上ってきたようだ。姉は私から数歩離れた位置に立ち、ふうっと呼吸を整えてから、私の表情をうかがうような顔をしておもむろに口を開く。
「ねぇ、詩乃。最近、留守がちだよね。急に出かけることも増えたみたいだし。今までは、あんまりそういうことってなかったよね」
「そうだったかな」
とぼける私に柚乃は断言する。
「そうだよ。今日だって、私と恭一と入れ違いみたいにして出かけて行ったしさ」
戸崎は今日の夕方にもやって来た。それはすでに何度目かとなった不意打ちの訪問で、今回も彼から逃げるように、そそくさと外出したのだったが、いよいよ柚乃に不審がられてしまったようだ。
「今日はどこに行ってきたの?」
私は笑顔を貼り付けた顔を姉に向け、こういう時のために用意してあった言い訳の一つを口にする。
「図書館よ」
「図書館?大学の?何か調べもの?」
小首を傾げて訊き返してくる柚乃に、私はつらつらと答える。
「大学より近いから、市立図書館の方に。そろそろ卒論のテーマを決めた方がいいよね、っていう話がゼミで出てきていて、色々と考え始めているところなんだけど、それでふと思いついたことがあって、資料になりそうな本を見たくなったの」
急ぐ必要はないけれど、半分は本当の理由でもあったから、多少は真実味があったはずだ。これであっさり話が終わると思っていたが、柚乃は前回とそれ以前のことまで追求してきた。
「この前とか、その前の時も?」
私は曖昧に答える。
「この前もそうだったかな。そしてその前の時は確か、大学の友達から課題を手伝ってほしいって泣きつかれて、それで急遽行ってきたんだったわ」
「ふぅん……」
柚乃は腑に落ちないような顔をしていたが、最終的には私の言葉を信じることにしたらしい。分かったというように肩を揺らし、続けて小さな唸り声を上げた。
「でも、そっか、そういう時期だもんね。私の方もぼちぼちだな……」
柚乃が本当の理由に気づかなくて良かったとほっとした。けれど、会話が長引けば、ばれてしまうかもしれない。そうなる前にさっさと会話を切り上げた方がいい。私は改めてドアノブに手をかける。
「もう、いいかな。私、やりたいことがあるんだ」
「あ、引き留めてごめんね。おやすみ」
「うん、おやすみなさい」
私は部屋に足を踏み入れた。
後ろ手でドアを閉めようとしたが、柚乃に呼ばれて動きを止める。
姉はわざわざ私の部屋の前までやって来て、明るい声で言う。
「思い切って、聞いてみて良かった。実はね、私、詩乃が恭一のことを避けているのかと思ってたんだ」
どきりとした。私が戸崎を避けていたことは、事実だ。しかし、実はそうなのだと頷くつもりはない。私はわざと呆れ顔を作り、ばかばかしいとでも言うようにくすりと笑う。
「どうしてそんな風に思ったの?私が戸崎さんを避けなきゃいけない理由なんてないのに」
「それはまぁ、そうなのよね。最初の頃の私じゃないんだから」
「そうだよ。柚乃ったら、戸崎さんのこと、あからさまに嫌ってたよね」
私の指摘に、柚乃はきまり悪そうに苦笑した。
私はにやりと姉に笑いかける。
「最近私が部屋でじっとしていなかった理由は、さっき言った通りなわけだけど、どっちかっていうと、気を使っていたつもりだったんだけど」
私の言葉が思いがけなかったのか、柚乃はぱちぱちっと瞬きをする。
「そうなの?気を使うだなんて、そんな必要は全然ないのに。だって、お母さんも一緒になって喋ったりしてるんだから」
「そうみたいだね。お母さん、戸崎さんのこと、気に入ってるみたいだもんね」
柚乃は嬉しそうに笑う。
「そうだったらいいなぁ。少しずつでいいから、恭一にはうちの家族のことを知っていってもらって、仲良くなっていってほしいと思ってるの。恭一もそのつもりで、時々うちに寄ったりしてるみたいなのよね。だって、実はね……」
柚乃は言葉を切り、私の方に一歩程踏み出して、声のトーンを落とした。
「この前のホワイトデーに会った時、恭一から言われたの。早く一緒になりたい、って」
「えっ?どういう意味?」
柚乃が何を言っているのかすぐには理解できず、私は大きく目を見開きながら姉の顔をじっと見つめて、答えを待った。
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#へたくそだけど許して
結月
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