テラーノベル
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篠原愛紀
#独占欲
僕は夜の駅前を猛ダッシュしていた。スマホの時計を確認する。23時55分。
(まずい。非常にまずい。ここから家まで、普通に歩けば10分はかかる。だが、今の僕の物理的スタミナは、焼肉の過剰摂取により著しく低下している……!)
脳内で最速ルートを再計算する。平均歩行速度を時速4kmから、全力疾走の時速12kmまでオーバークロックすれば、理論上は間に合う。だが、信号待ちという不可抗力なパケットロスが発生すれば、即座に門限エラーだ。
(白石さんは『12時までには帰る』という僕の言葉を、文字通り『絶対定数』として保存しているはずだ。5分……いや、1秒の遅れも、彼女にとっては僕の愛の欠落を意味する……!)
「はぁ、はぁ……っ! 頼む、白石さん! 寝ててくれ! 起きてても、せめて寛大な心でいてくれ……!」
35歳の心臓が「異常発熱」を知らせるアラートを鳴らし、肺が悲鳴を上げているが、僕は止まるわけにはいかなかった。
――だが。 玄関のドアを開け、無情な現実を告げるスマホの画面は『0:05』を表示していた。
玄関先には、僕が贈ったモコモコのルームウェアに身を包んだ、可愛らしい「うさぎさん」がいた。……いや、それは獲物を待つ「肉食うさぎ」だった。
その夜、僕は独身最後の夜を惜しむ間もなく、朝まで徹底的に「捕食」されることになったわけである。
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