撮れ高十分と判断したのか、スタッフが次の撮影準備を呼び掛けに来る。簡単な衣装チェンジをして、それぞれ撮影した後に着替えて移動するという流れだ。俺、若井、涼ちゃんの順に撮影が進み、ここで「⑤撮影終了後、若井が間違えて藤澤の服に着替える」のドッキリが仕掛けられる。
撮影を終えた若井が、涼ちゃんの私服を手に戻ってくる。
「いや、これすぐばれるよな~。だって撮影から戻ってきたら衣装のとこに自分の服がないわけだから……それに俺と涼ちゃんじゃ私服のテイストが違うしね」
そういって若井は手に持った涼ちゃんの服を掲げてみせる。衣装ではジェンダーレスなものや女性ものを取り入れたり、色味もカラフルなものが多かったりするが、私服は目立つのを避けるということもあり普段は控えめなものが多い。今日は白のオーバーサイズなトレーナーにカラフルなチェーンのついたベルボトムのジーンズ。
「俺白とかあんま着ないし、パンツもここまで裾広がってるのはないからなぁ。違和感やばそう」
「いや、バレていいやつだからね?それで涼ちゃんの反応みるんだから。気づかれなかったら企画の趣旨変わっちゃうでしょ」
笑いながら、早く着替えるよう若井を促す。ちょうど着替え終わって、着ていた衣装を片付けているところに涼ちゃんが戻ってきた。ちなみに手には何も持っていない。衣装置き場にそれぞれ置いたはずの自分の服がないことに気づいたのだろうか。
「二人ともおつかれ~。いやぁ今日の撮影結構長かったね~」
そう話しながら衣装のジャケットを脱いで椅子の背もたれに掛け、次いでブラウスのボタンに手をかける涼ちゃん。あれ?まさかとは思うけど着替え持ってきてないことに気づいてない?というか目の前にお前の服を着た若井がいるんだけど。
「そうそう、さっきさ~」
戸惑う俺たちの反応にも気づかず、ひとりで会話を進めながらどんどん衣装を脱いでいく涼ちゃん。だめだ、このままだと上裸の成人男性が完成してしまう。
「涼ちゃん、着替えは?」
思わず俺が口を挟むと、あっ、と小さく声をあげて口に手を当てる。
「やばい、僕持ってくんの忘れちゃった」
取り行ってくんね~とブラウスの前は全開のままぱたぱたと控え室を飛び出していく。まぁいいか。完全に脱いでたわけじゃないし。
「涼ちゃん入ってきたとき、確実に俺と目あってんだけど。服気づかなかったね」
「見てはいるけど見えて無いやつね。いつものことでしょ」
すぐにまたぱたぱたと足音が聞こえてくる。
「やっぱこっちだったかも!」
僕の服置いてなかった?と首を傾げる彼に、今日どんな服着てきてたっけ、と尋ねると、なぜかえーと……と考えこみ始める。
「やばい、なんだっけ……」
嘘だろこいつ。笑えるの通り越して心配になってくんだけど。見かねた若井が、涼ちゃん涼ちゃん、と声をかけながら立ち上がる。
「えっと……俺の格好、なんか気づかない?」
「え?なんか珍しいかっこしてんね~。あ、待って!」
何かに気づいたように目を見開く涼ちゃん。思わずツッコみたくなるような若井のおまけすぎる大ヒント、さすがに気づかないわけないか。
「僕もおんなじトレーナー持ってる!おそろい!」
嬉しそうなにこにこ笑顔。さすがに嘘だろ!逆に仕込み疑われるレベルだわ!笑いを堪えきれずに机に突っ伏す若井。俺も吹き出してしまう。
「ちげーよ!俺が涼ちゃんの服着てんの!なんで気づかねぇの」
げらげら笑いながら、息絶え絶えに何とか説明する若井。
「えあっ、そういうことか~。でもなんで僕の服着てんの?」
「いや、涼ちゃんがどんな反応するかな~って」
ふうん?と涼ちゃんは不思議そうだが、とりあえず納得したようで頷いてみせる。
「でも若井、そういうのも似合うね~」
本当に企画の趣旨が変わってきてしまいそうで不安になる俺たちをよそに涼ちゃんは相変わらずにこにこしているのだった。
その後の「⑥移動用のバスが遅れて、30分外で待たされる」でも、まったくイラつく様子などみせず、最初のうちは「今日は道混んでるんですかね~」と付き添いのスタッフと和気藹々としゃべっていた。そのうち、外の風が強いのでスタッフの体調を心配したり、バスの運転手がトラブルに巻き込まれていないかという心配をしたり、スケジュールについてメンバーに迷惑が掛からないかを心配したりし始めたが、全部他人の心配だ。
さらに遅れてきたバスに乗って到着したスタジオでは転んだスタッフに「⑦バケツの水をぶっかけられる」のだが、そこでもまず転んだスタッフの心配。
前半のスタジオ練習を終え「⑧休憩時に若井が藤澤のゲームデータをうっかり消す」のドッキリでも
「全然いいよ~、そのうちリセットしてまたやり直そうかなと思ってたくらいだし!」
と、不機嫌になるそぶりすら見せない。正直言って、俺と若井にとっては予想通りの展開と言えた。まぁちょっといつもにもまして涼ちゃんの変なとこが出てしまっている気はするけれど、「藤澤涼架」という人物を全国のお茶の間に知ってもらうにもちょうど良いだろう。
ところが、番組制作側としてはどうしても「藤澤涼架の意外な一面」で話題性を狙いたいらしい。
「大森さん、次なんですけど、打ち合わせよりちょっと激しめにやってもらってもいいですか?藤澤さんに強めの言葉使う感じで……」
トイレに行こうとスタジオの休憩室を出たときに制作スタッフに耳打ちされる。
「いいですけど……でもたぶん藤澤キレたりとかないですよ。多分泣きます」
「それでも大丈夫です」
スタッフは申し訳なさそうに頷く。
「そのあとの藤澤さんひとりにするシーンあるじゃないですか、そこで仕掛けてみようと思うので」
何をするつもりなのかと聞く前に、そのスタッフは他の人に呼ばれて去ってしまう。若井が何か聞いているかとあとでこっそり尋ねてみたが、彼も首を横に振るのみであった。仕掛けるって何をだろう、とすこしもやもやしながらスタジオ練習を再開する。さて、「⑨練習時に大森から理不尽にキレられる」。ここからは俺がかなり重要な役回りとなる。
※※※
皆さんたくさん反応くださってめちゃくちゃ嬉しいです🙏💕ありがとうございます!
最近バラエティもいろいろ出てるのでドッキリとかにも出演しないかなーなんてちょっと期待しつつ……(笑)
次回、最終話になりますー!
コメント
11件
「おそろい!」ってにこにこしてる涼ちゃんかわいいー! 想像できすぎる、、(笑) あっという間に最終回だ~ 最後どうなるかめちゃくちゃ楽しみ!
初コメです~!!! 涼ちゃん大丈夫かなぁ…でも泣いてる涼ちゃんって…せいへき、(( 泣き顔っていいですよね。 フォロワー失礼しまーす!!
いやぁ……ほんとにいい人すぎる……好きすぎで人生変えられそうなほど涼ちゃんが好きになってしまっています。いろはさん、、(´;ω;`)次回もほんっとに楽しみにしています(´;ω;`)