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玄関の扉を開けると、すでにラズールが立っていた。僕を見て柔らかく微笑み、背後を見て目を細める。


「ああ、いたんですか」

「そりゃあいるだろ。俺の家なんだから」

「フィル様に苦労をかけさせぬよう、働きに出かけてるのかと」

「フィーに苦労などさせない。今はまだ、伯父上の跡を継ぐために勉強中だ」

「…そういえば前にそんなことを仰ってましたね」

「おまえはフィーの話以外は本当に聞いてないよな」


リアムが息を吐き、その息が僕の頭にかかる。

僕は二人を交互に見上げて苦笑した。


「ねぇ二人とも、中でゆっくり話したら?あ、僕が邪魔なら出てるよ?」

「とんでもございません。俺はフィル様の顔を見に来たのに、このひ…リアム様と二人にされても困ります」

「俺も嫌だな。それに俺が出てた方がいいだろ」


リアムが僕の頭に手を乗せて、顔をのぞきこんできた。

僕はリアムの手を握って首を振る。


「えー…どこ行くの…。行くなら僕も一緒に」

「くっ…またそんなかわいいことを言う。わかった、今はどこにも行かないよ」

「よかった」


僕が安堵して微笑むと、銀髪をするりと撫でてリアムが笑う。

ひと月前に、僕は長かった髪を切った。だけど生まれてからずっと長かった髪を、いきなり短く切るのはためらわれて、肩より少し下くらいまでの長さで切った。約束どおり、切った髪の半分はリアムが持ち、もう半分はラズールが紙に丁寧に包み革袋に入れて持ち帰った。ゾッとする話だ。だから次に短くする時は、リアムもラズールもいない時に、ノアの家に行って切ってもらおうと決めている。


「フィル様」


ラズールに呼ばれて、僕は慌てて振り返る。


「あ、中に入れなくてごめんね。入って」

「いえ、すぐに行きますのでここで大丈夫です。フィル様のお顔を見るためと、これを渡すために寄っただけですので」

「なあに?」


ラズールが木の箱を差し出した。

僕はそれを受け取り、首を傾げる。


「ネロ…新王からの手紙です。前にフィル様から預かった手紙の返事だそうです。ついでにトラビスからの手紙も入ってます…というか、アイツが勝手に入れたんですが」

「返事書いてくれたんだ!嬉しいっ、ありがとうラズール!」


嬉しい嬉しい!嬉しくて僕はラズールに笑い、後ろを向いてリアムにも笑う。

リアムがよかったなという風に、僕の頭を撫でた。

「ただし」と低い声が聞こえ、僕は顔を前に戻す。


「わかってるとは思いますが、その手紙はお一人の時に読んでください。新王もイヴァルの内情を書いてはいないでしょうが、念のためバイロンの者には見せぬようお願いします」

「わかってる…けど、僕もバイロンの者だよ」

「今は…。しかし、あなたの故郷はイヴァルですよ」

「うん…」

「安心しろ。フィーの手紙は絶対に見ないから」


リアムがよく通る声で言う。

その言葉に、ラズールが「お願い致します」と頭を下げた。




「ラズール、本当にすぐに行っちゃったね」

「ああ、やはりアイツも忙しいんじゃないか?明日、俺達が伯父上の城へ行っても、もう帰っていないかもな」

「そう…残念だな。ゼノやジル達とラズールも一緒に、ゆっくりと食事を楽しみたかったのに…」


僕は今しがたラズールが去った方角を見て項垂れた。

リアムが僕の肩を抱き寄せて、慰めるように言う。


「まあ、アイツはまたすぐ来るだろ」

「うん…。ね、リアム、今からどこかに出かけない?」

「いや…明日、遠出をするから今日はゆっくりしよう。俺は馬の世話をしてくる。フィーは中で手紙を読んでるといい」

「僕も手伝うよ」

「大丈夫」


リアムが僕にキスをして、玄関前の階段を降り厩の方へ歩いて行った。

僕は、手紙の入った箱を抱えてリアムの背中を目で追う。

手紙が気になって、ソワソワしてるのに気づいたのかもしれない。だから気を利かせて外に出てくれたんだ。


「ありがとうリアム…」


小さく呟いて中へ入る。

本当は馬の世話もしたい。だって厩に僕の愛馬のロロがいるから。ラズールが連れてきてくれた。ロロはリアムにも懐いている。リアムが乗っても暴れない。きっと僕の好きな人だとわかってるんだ。


「手紙を読んだら僕も行こう」


寝室の扉を開けながら一人で頷いた。そしてベッドの端に座り、箱の紐を解いてフタを開ける。

確かに、中には二つ手紙が入っている。分厚い方がネロで、薄い方がトラビスかな。

分厚い方を手に取り、便せんの端を切って中の紙を広げた。前にも見たことがあったけど、ネロの力強い字が並んでいる。

僕は少し緊張しながら読み始めた。僕への恨みが書いてあると思ったからだ。ネロには何も言わずに、玉座を託してしまった。トラビスにお願いしたとはいえ、僕の口から直接頼んでいない。だから本当は返事をもらえるとは思っていなかった。なのに返事をくれた。たとえ罵詈雑言が書かれていたとしても、すごく嬉しい。

読み進めるにつれて、手紙を持つ手が震える。何度も目を擦らないと字が見えなくなった。こんな所をリアムに見られたら、また泣いてるのかと笑われちゃうな…。

ネロは怒ってなんかいなかった。味方もいない王城で苦労してるだろうに、僕の心配ばかり書いてあった。他国で辛い想いをしていないか、食べ物は口に合うのか、リアムに泣かされていないか、クルト王子に命を狙われていないか。そしてフィルが心配だからラズールに様子を見に行かせてるんだと。


「もぉ…僕のこと怒っていいのに…優しすぎ…」


僕は手紙を机に置いて、手で顔を覆って泣いた。




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