「…嫌い」
そう言って俺は家を出た。特に目的もないけどただ何となく大通りに向かって歩く。
角を曲がると綺麗なイルミネーションが輝いていた。俺の感情とは裏腹に幸せそうな音楽が流れている。
「さむ…」
こんなはずじゃなかったのに。楽しい1日を過ごすって張り切っていたのに。ほんとバカ。ケーキの味なんてなんだっていいじゃん。
それなのに…なんでかムキになってあんなこと言っちゃった。でも今更言い訳なんて出来なくて。
俺の誕生日だった。オレンジのケーキがいいって頼んだのに違うやつだった。ほんとそれだけのことなのにさ。今までのことが積み重なって咄嗟に出ただけなのに。俺バカじゃん…もう…
クリスマスと大晦日の混じったような喧騒で俺は1人公園のベンチに座る。みんな忙しなく歩いて、子どもたちもワイワイ楽しそうにしている。昨日もらったクリスマスプレゼントかな…いいな…
俺の誕生日を祝いたいって言ったのはキヨくんだった。色々準備してるからっていつもの笑顔で言ってくれたのにさ。
あ…やばい…泣けてきた…
「っはぁ…はぁ…」
誰かの荒い息遣いが聞こえた。地面を蹴る音も。俺は人に見られないようにとフードをかぶる。こんなところでこんな時間に変なやつだと思われちゃうから。でも違ったみたい。いや、知らない人だったら良かったなって思ったけど。
「…レトさん」
俺はその呼びかけに答えられない。だってこんな顔…見られたくない…
「ねぇ、悪かったよ」
声の主は俺の前にしゃがんで、俺の顔を見ようとフードを覗き込む。こういうのを見ると、俺ってほんと子供なんだなって思っちゃう。あやされる子供じゃん。
「無かったんだよ、売り切れてたの」
「それなら言ってくれればよかったのに」
「うん、それは俺が悪かった、ごめん」
また謝らせちゃった。喧嘩したとき、いつも先に謝るのはキヨくんの方。俺は意固地になって全然謝れない。心の何処かで“謝ったら負け”って思ってるのかもしれない。でもそれじゃ…
「…俺も、ごめん、ケーキありがと」
「ほら、帰ろ」
俺の言葉を聞いてホッとした様子のキヨくん。立ち上がって俺の前に手を差し伸べている。
「帰ったら仕切り直してさ、ちゃんと祝わせて。俺の大切な人が生まれた日だもん」
「なんでそんな…恥ずかし…」
「今更でしょ、ほら早く」
差し出された手をゆっくりと握って俺はまた家に向かっていった。
Fin.
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