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#死亡遊戯で飯を食う
ユイ
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みの
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308
御者の耳にも聞こえているはずだけれど、形式美的なものなのだろう。
笑顔で頷いておく。
ノワールの手を借りて馬車を降りる。
御者が深々と礼をするので、会釈で返して目の前に佇む屋敷を見上げた。
「……オックスフォード風住宅?」
乙女ゲームでよく見かけるオックスフォード風住宅のゴシック様式。
一生住みたい! と思う人も少なくなさそうだ。
ギルドマスターが施錠を外す。
現時点でゴーストの拒絶はないようだ。
既に浄化されたのだろうか?
玄関に足を踏み入れても、悪霊がいる特有の気配は感じられなかった。
『……様子を窺っているようでございますね。女性一人、女児二人、男児一人のゴーストがおります』
なかなかに大所帯だ。
お妾さんとその子供たちだろうか。
足りない二人は既に浄化できたのか。
そうであればいい。
「干渉がないようなら放置で、強制除霊はしませんが状況によって同居か浄化にします」
『主様の御心のままに……』
私とノワールの会話にギルドマスターは沈黙を守っている。
頭の回転が速いだろうギルドマスターは、ノワールの声が聞こえなくとも話の内容を的確に掴んでいるはずだ。
「ギルドマスターはどう思いますか?」
「私で、ございますか? エルフは出生率がとても低く生まれ変わりの思想がございますので、今世での憂いを払い、次の生に希望を見いだしてほしい、と……そんな風に思います」
「なるほど」
そんな言葉を聞いても、やはりゴーストたちに暴れる気配がない。
しばらくは同居で、慣れてきたら希望を聞くのが無難な選択だろう。
「マスター。案内を」
「はい。畏まりました」
何故か背後に大人しくついてくるゴーストたちを、従えるようにして家中を見て回る。
まずは玄関を入って一階。
右手に食堂、左手にキッチン、真正面には広々としたサロン。
キッチンは冷蔵庫やオーブンなどを中心として、ノワールが満足する設備がついていた。
サロンの隣にはサロンを有効活用するべく、遊具や書籍などが置かれていたという倉庫的な部屋がある。
地下はワインセーラーや食料庫の他に、使用人たちの作業部屋が、作業の種類によって用意されていた。
二階は、私と守護獣、ノワールとランディー二が生活するだろう空間。
広い寝室を私が使い、他に二つある寝室をそれぞれ彩絲と雪華、ノワールとランディー二で使う感じになりそうだ。
しかし、寝室の隣にある化粧室の存在には慣れない。
トイレではない。
俗に言うドレッサールームだ。
日本間取りで十畳以上あるだろう。
夫がいたら、嬉々としてクローゼットを埋めそうだ。
や、彩絲と雪華が同じ勢いで埋め尽くす気がする。
三階は屋根裏部屋扱いで、使用人たちの部屋が個室二つ、二人部屋が二つあった。
トイレは各階に一つ以上、風呂は二階に三つ、地下にも一つ設置されていた。
私が使う予定の風呂は猫足バスタブなので、ちょっとしたお姫様気分が味わえそうだ。
一通り回って大きく息を吐き出せば、ノワールが何もないサロンの中央に、椅子とテーブルとティータイムセットを一式準備してくれた。
「ギルドマスターもどうぞ」
「有り難く」
ノワールの淹れてくれた紅茶を飲んで一息吐いてから、私はギルドマスターに告げる。
「是非、この屋敷を王都の拠点としたいと思います」
「ありがとうございます! 現時点ではゴーストの拒絶はございませんが、ゴーストがいるのは感知できましたので、賃貸でしたら一ヶ月500ギル。お買い上げいただけるのでしたら、1000ギルとさせていただきます」
「やすっ!」
思わず叫んでしまった。
値段を聞いてしまえば購入一択だ。
謂われやゴーストの存在を考慮しても、数万ギルの価値はあるに違いないのだから。
「正直に申し上げまして、ゴーストが屋敷へ入るのを許可したのは、今回が初めてでございますので……」
ケーキスタンドに乗っているお菓子を見ている子供たちから伝わってくるのは楽しげな気配、女性から伝わってくるのは恐らく安堵。
幸せだった世界を、誰かにそのまま伝えたかったのだろうか。
大切に使ってくれる人物を捜していたのかもしれない。
「それならば、購入で……ノワール」
「賛成でございます」
「では、書類にサインをお願いいたします。代金は後日でも問題ございませんが……」
何もない空間から書類が取り出された。
アイテムボックスは当然のように持っているようだ。
エルフだしね。
「即金で」
私も指輪から銀色の硬貨を取り出してギルドマスターの前へ置く。
指輪を凝視されてしまった。
指輪型のアイテムボックスは珍しいのだろうか?
ノワールが静かに頷く。
「そ、それでは控えになります。は! 申し訳ありません。立会人を召喚されますか?」
「うーん。沙華呼ばない方がいいよね?」
ノワールは目伏せて数秒してから、頷いた。
まだ立て込んでいるようだ。
どれだけしつこいストーカーなのか。
「アーマントゥルード・ ナルディエーロ様と御縁を結ばれましたか! でしたら……御都合のよろしいときに確認していただきます」
「ありがとう。急がないので、沙華とマスターの都合がいいときに」
「承りました。さて! 私はこれにて失礼させていただきますが、馬車を残していきましょうか? これから、家具などの購入がございましょう?」
「お気持ちだけ有り難くいただきましょう。私がいれば荷物は問題ありません。主様とランディー二の三人で拠点を整えたいと考えております」
「ランディーニ殿もおられましたか……」
大きく目を見開いている。
それだけ完璧に気配が絶たれていたからだろうか。
「ふおっふおっ。お主が何かしでかそうものなら、我のスキルを存分に体感させようかと思ったのじゃがのぅ……誠実な条件だったので出番がなかったのじゃよ」
姿を現したランディーニの言葉に、ギルドマスターは目を潤ませている。
「のぅ、奥方よ。マスターは誠実であった。名を呼ぶ価値はあるのではないか?」
「ランディーニ! 越権行為であろう!」
「だ、大丈夫だよ、ノワール。おぉ、越権行為とかリアルで初めて聞いたよ、 喬人さん」
思わず夫に呼びかけてしまった。
まぁ、ランディー二ですからねぇ。
ノワールさんに、怒らないように伝えてください。
お年寄りを労る感じで。
「ノワール? 主人がお年寄りを労る感じで、許してあげてほしいと……」
ノワールとランディー二が揃ってしょっぱい顔をした。
ギルドマスターは、どんな顔をしたらいいか分からないよ! と言いたげな実に複雑な表情をしている。
「ギルドマスター。お名前を伺っても?」
「っ! アメリア・キャンベルと申します」
「では、今後。キャンベルさんとお呼びしますが……よろしいですか?」
「ありがとうございます! 光栄でございます!」
ファーストネームでなくても光栄らしい。
言われてみれば、身内以外はファミリーネームを呼ぶのすら稀だった。
「全く、貴女はいろいろと甘過ぎですよ、ランディーニ!」
「お主が厳しすぎるのじゃ。まぁ、主様には格別優しいから、そのままでいてほしいとは思っておるがの?」
「余計なお世話でございます!」
声を荒らげる※ノワールは珍しい。
思わずキャンベルと目配せをして、二人でこっそりと笑ってしまった。
満たされた顔をして去って行くキャンベルと御者を玄関先で見送る。
『主様、早速買い物に行かれますか? それともゴーストと話し合いをされますか?』
「うーん。どうしようかしら?」
開かれた扉から中を覗き込むと女性と子供たちが静かにこちらを見詰めている。
取り敢えず手を振れば子供たちが振り返してくれた。
女性は深々と頭を下げている。
「……先に買い物へ行こうか。行ってくるので、留守をお願いできますか?」
子供たちは幾度となく頷いた。
女性は掌を合わせて頭を下げていた。
こちらの祈りポーズは仏教っぽいらしい。
「ではよろしくお願いします」
いってらっしゃーい! とばかりに、子供たちの手が大きく振られた。
女性も子供たちに倣っている。
「……お土産は何がいいかな?」
『大変難しい質問でございますね、主様』
自動的に閉まり、施錠までなされた扉を確認したノワールが深々と溜め息を吐いた。
呆れられたようだ。
「お菓子とか食べられたら幸せだと思うんだけど……」
『ゴーストが実体化できた例はございません。また、ゴーストの訴えを聞くのにはスキルが必要です』
「教会なら得られそう?」
『主様であれば、既にお持ちの気もいたしますが……』
「浄化は持ってるよー」
『修練を重ねた者しか持てぬ、レアスキルでございます。さすがは主様! 主様が望めば十分な対話が可能でございましょう』
『まぁ、あれじゃな。審議の結果、奥方子供は我々に無害であるようじゃ。母親が話しかけてくるまで待てばよいのではないか?』
ランディーニの真偽なら間違いはない。
けれど。
「その我々には、奴隷たちも入るの?」
『……全員ではないの』
「やっぱり」
少なくとも一度、奴隷たちがダンジョンから戻る前に話を聞いておく必要がありそうだ。
奴隷たちが入れないでは拠点を得た意味がなくなってしまう。
屋敷には荒れた気配がなかったので、ゴーストたちに任せても管理はしてくれるような気がしないでもないのだが。
「買い物と夕食を終えて、夜にでも話をするのが無難かな?」
『うむ。夜であれば、彼女らも力が強い。十分に対話ができるじゃろうな』
『では、そのようにいたしましょう』
「うん。じゃあ、行こうね! まずは何処からがいいかしら」
『索敵の条件を変えれば店の検索は簡単じゃ。ノワール、お主が考える必要な家具はなんじゃ?』
『こちらです』
何時の間に書いたのだろう。
ノワールはランディーニに一枚のメモを突きつけた。
『ふむふむ』
横から覗き込むとそこには。
欲しい家具一覧
主様用。
天蓋付きベッド。
寝具。
猫足バスタブ。
カーテン。
ドレッサー。
ティーテーブル&椅子五脚
照明三個。
テラス用インテリア。
カーペット。
奴隷用。
ベッド。
チェスト。
と、書かれていた。
なるほどのラインナップだ。
奴隷用が少なすぎる気もするが、最初は必要最低限の物にするのが普通の対応らしいと、百合の佇まいでお茶をしているとき、沙華に教えてもらった。
「あれ? バスタブは綺麗なのが置いてあったけど?」
『……掃除が行き届いているだけでございます。犯人は全身に浴びた血をあのバスタブで洗い流したと調べがついております』
「そ、そうなんだ。じゃあ買い換えた方がいいね」
そこまでの情報は、ギルド側から提示された書類に記載されていなかった。
何時の間に突き詰めた情報を得たのかと聞いても、メイドの嗜みでございます、と返事がありそうだ。
聞くまでもないよねーと肩を竦めていると、ランディー二の検索が終わったようだ。
『ふむ……貴族御用達好評店で検索してみたが……大丈夫じゃろうか』
『私も貴女もしばらく世に出ておりませんでしたから、少々不安ではありますが致し方ないでしょう……いざとなったら御方の情報を使わせていただきましょう』
こちらの世界にいる二人よりも、あちらの世界にいる夫の方が情報に通じているという不思議。
「今でもいいけど?」
夫が沈黙を守っているので、二人を信用しているのだろう。
そうでなくても私が許可しているのだから、使えるものは使えばスムーズだと思う。
『困ったときにだけお願いいたします。主様が御方の情報を使われるのは当たり前でございますが、私どもが日常的に利用していいものではございません。お気持ちだけ有り難く頂戴いたします』
『そうじゃなぁ。今更信頼関係は揺らぎようもないが、我らにも矜持があるのじゃ。ま、年寄りの戯れ言と、軽く聞き流してほしいところじゃな。のう、ノワールよ』
『……真にお年寄りの貴女と一緒にされたくありませんが、ここはさらりと流していただきたい点には同意いたします』
「了解ー! では二人にまるっとお任せします」
それだけ自分の仕事に自信があるのだろう。
素敵だ。
尊敬できる相手には尊重で返したい。
『ふむ。ではカーテン専門店に行こうかのぅ。ほれ、その串焼き屋台を右に折れた所じゃ』
『王都で唯一の専門店です。まず間違いはないでしょう』
フラグ?
フラグ!
と、内心ドキドキしながら扉に手をかける。
「いらっしゃいませ」
入り口で人がスタンバイしていた。
穏やかな笑顔だが、目は笑っていない。
歴戦猛者の予感がする。
『主様はどんなカーテンを御希望されますか?』
「やわらかいグリーンとピンク系がいいかな。カーテンは二種類必要な感じ?」
『はい。レースの薄い物と厚みのあるしっかりした物をお選びください。ランディー二! 主様に説明を』
『ほいほい。了解じゃ』
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