「俳優、ナツさん入ります!!」
ADのその一言で現場の監督スタッフを含めた全員が無意識に背筋をスッと伸ばした。
「よろしくお願いします!!」
明朗快活な性格を表すかのようににっこりと笑って現場の奥まで届く程の声で挨拶をした。
「ナツ君よろしくぅ〜、うちの娘もナツ君のこと気に入ってんだよ!良い芝居期待してるから」
「マジっすか!嬉しいっす!!精一杯頑張りますね」
急に近付いて来て話しかけてくる監督に、嫌な顔一つせずに笑い元気よく答える。精一杯頑張ると言ってはいるものの、彼は現代老若男女問わず知らない人はいないと揶揄されるほどの人気俳優である。
「では、シーン35叱咤からいきまーす」
ADの声にナツは台本を一瞥して深呼吸をする。吸った息を吐いた途端、ナツが纏う雰囲気が変わる。
「では、アクションの合図でいきます!5、4、3、……アクション!!!」
カチンコがスパーンとなればいい目を伏せていたナツはゆっくりと瞼を上げた。
「…どうされたい、組から逃げたお前を俺はどうすれば良い?」
下げられた瞼から隠れ出た瞳には温度も感情も乗っていない。酷く冷たい目だった。
言葉の一音でホールの空気がパキリと凍ったように感じる。
「なぁ、俺はお前を黙って許せば良いのか?」
カメラに向かってまっすぐ見る、レンズ越しにスタッフも監督も冷や汗が背中に伝う。
「…もう良いよ、お疲れさん」
衣装の下から出した小道具の拳銃をカメラに近付けて、フッと小さく狂気と妖艶さを含んだ笑みを浮かべた。
…あれっ、セリフ終わったよね?シーン35ってここまでだよね?カットなんで出ないんだ?こわい!俺なんかミスった!?!?
カメラに変わらぬ顔を向けながらグルグルと悩んでいるナツはじんわりと汗が滲む。
「っ!あぁカットカット!!」
ナツの勢いに慄いたスタッフが焦ってカットを取る。
「……俺なんかミスっちゃいましたかね?」
心配そうな顔で眉を下げて監督に伺うナツの顔には先刻の威圧感は消えている。
「いやいや、完璧だよ!さすがナツ君」
「良かったです!」
営業スマイルとは思えない程自然な笑顔でニコニコと笑ったナツ。
「じゃあ次、続きのシーン36からいきます!!」
時計の針はいつの間にか4時半を指していた、もうすぐあの人が来るだろう。
そう思って水の入ったペットボトルを傾けて乾いた喉を潤していた。
「ナツ、終わったか?」
背後から急に現れて迎えに来たマネージャーのうちの1人が淡々と聞く、ペットボトルの蓋を閉めて終わった事を伝える。
「近藤さん!うん、終わった」
「じゃあ、お疲れ様でした!!」
ナツが元気よく挨拶をすれば金髪の近藤は無言のままペコリと頭を下げて収録部屋を後にした。
廊下を衣装のまま歩いて、すれ違うスタッフにも元気よく挨拶をして自分の芸名が書かれた控え室のドアを開けた。
ガチャリ
扉が完全に閉じた音がしたと思えば、オールバックにしていたナツの頭からアホ毛がぴょこんと現れた。
「…無蛇野さん、疲れたぁ〜」
「まだ家に着いてないんだから、その名前で呼ぶな四季」
「んふふっ、無蛇野さんだって言ってるじゃん」
自分がつい口を滑らせたことに無蛇野は黙り、早く着替えろと急かす。
はーい、と間延びした声で返事をして衣装から普段着に着替えた。
衣装は無蛇野扮する近藤がスタッフへ返却しに行った。
「近藤さん、準備できたよ」
「じゃあ帰ろうか、ナツ」
戻ってきた近藤にニコッと笑う帽子と眼鏡のナツ。
「ただいま〜」
ごく普通の二階建ての家に四季の声が響いた。その途端にキッチンからは優しい晩ごはんの匂いがしてくる。
「おかえり四季」
帽子を取って四季の頬にキスを落とす無蛇野。
「ちょっと!ダノッチ!!1人じめ狡い!!」
「玄関でチューしちゃって!!」
「ただいま、花魁坂さん」
勢いよく怒り出した花魁坂を見て目を細めて笑う四季。愛おしさが溢れて抱きつこうとした花魁坂を片手が阻止する。
「さっさと手洗ってこい、一ノ瀬」
「うん、そうする。ありがと淀川さん」
四季よりも低い背なのにも関わらず片手で花魁坂の顔面を歪めるほどに鷲掴んでいる、指の隙間からは花魁坂の痛いという悲鳴が漏れているが淀川の耳には届いていない。
「少年おかえ、ゲホッっ…おかえり」
「印南さんただいま、血大丈夫?」
咳き込んで口の端から溢れた血を拭う印南に駆け寄り体調を案ずる四季が一緒にリビングに入れば、ソファに腰掛ける紫苑とキッチンで料理をしている猫咲と並木度が居た。
3人とも四季を見て、おかえりと笑う。
一ノ瀬四季…俳優ナツには7人のマネージャーと彼氏がいる。
つい出来心で書いちゃいました…また続きがまともに書けてないのに…
続くかはわかんないです…
コメント
6件
またもや神作を作ってくれたんですか?!ありがとうございます!!
_:( _ ́ཫ`):b最高やん…
あぁ、仏様のお迎えがきたようだ