テラーノベル
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Scenic Gemは思ったよりも人が多かった。
「平日だよね…?金曜日?違う、木曜日だよ…」
「才花、こっち。進みますよ」
「ここのロッカーは?」
「席のリザーブしてあるので、そこにあります」
ロッカーの前で順番を待とうとした私の手首をそっと掴んで、兄は人混みをすり抜ける。
その間に
‘ドッ…ドドン、ドッ…ドドン、ドッ…ドドン…’
規則性のあるリズムがだんだんと大きくお腹に響き始める。
おおぉぉ…久しぶりに全面スピーカーの音を体に受けたね…ただ音の大きい音楽ではなく、クリアで心地の良い音を味わえるのもScenic Gemの魅力だね。
「なんか…こんな感じだったのかな?前は席とか知らなかったけど…」
「数日閉めて改装していたらしいですね。大きくは変わってないですけど、どこを改装してたんだ?それで今日は人が多いのかもしれません」
兄は席に着くと、壁にはめ込み式の小さなクローゼットを開けて上着や貴重品を入れてしまえと言ってから、カウンター以外は予約が必要なVIP席という席だということ。
この予約がないと立ちっぱなしということも大いにあり得ること。
VIP席専用の化粧室が完備されていること。
フロアの行き来は自由なので踊りたくなればフロアにいけばいいこと、などを説明してから
「飲み物はどうしますか?」
と私に聞く。
「あのね、水とウーロン茶しか知らないレベルなの。ここでは、どうするのが正解かな?」
「アルコールを飲まない?」
「飲まない」
「ノンアルコールカクテルもあるけど、ジュースも避けたいですよね?」
「一番避けたい」
場違いな私の返事に兄は驚くこともなく
「グレープフルーツのフレッシュジュースを絞ってもらうか、炭酸レモン水はどうでしょう?」
と提案してくれる。
「グレープフルーツにする」
「ナッツは体にいいですね?」
「うん」
あとは兄に任せておけばいい。
私は席からフロアを見渡し、たくさんの人がその場で肩を揺らし談笑し、手を取り合って自由にジャンプして大声で笑っている様子を眺める。
たまに、ダンスのステップを練習している人もいる。
友人と互いに見せ合ったり…ふふっ…曲が変わってリズムが変わると一気にめちゃくちゃになって笑い転げてる。
で、諦めたのか1、2、3、4の4の音で高くジャンプするという動作を彼らが繰り返し始めると、それが周りに派生して、同じタイミングでジャンプや‘ハイッ’という掛け声がフロアで揃い始めた。
「アハハ…グラス持った人も器用だね」
「濡れても分からないくらいハイなんじゃないですか?」
「楽しそう」
「はい」
「…私は………ずっとダンスしてきたんだけど…」
「そうですね。極めたというレベルです」
「うん…でもその極めたはずのダンスにも…こういう…なんて言うんだろう…外側があるのかもしれないね…」
多くの人が一斉に声を上げてジャンプして空気を大きく揺らすのを感じながら、ビールの瓶に口をつけた兄と目が合う。
「私にはまだまだ知らないことがたっくさん…だね」
「楽しみがたくさんですね」
そうだね…楽しみがたくさん…
「お兄ちゃん、行く?私、ちょっと混じってくるよ」
コメント
2件
才花ちゃん、自分から動き始めましたね~😆✨
ドッ…ドドン いいねーお腹に響くこの感覚!ついリズムに合わせて体が揺れる〜🪩✨そそ!曲が変わるとめちゃくちゃになる😂いいな〜みんなでそうやって輪が広がってね✨その違う楽しそうに気付いたね🥺 才花ちゃんのほんとの新しい扉が開く瞬間だね😭✨そしてお兄ちゃんがそこにいて見届けてくれてる😭