テラーノベル
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「ごゆっくり。ここで見てます。緒方が来るかもしれないので」
「そうなの?」
「俺が出て来るのが珍しいので…たぶん」
「そっか、そっか」
そう言って立ち上がった時には、気分が少し上がっていて
「いってきます」
座ったままの兄に手を向けてハイタッチをしてから通路を渡り、フロアに立って自分のスペースを…
……ん……?
これ…フロア素材が変わってる。
皆の雰囲気に混じるつもりだったが、私はシューズを滑らしてフロアを確かめる。
何度も足を滑らせるステップ…ランニングマン、Tステップ、チャールストン…確かめて軽くジャンプしてフロアにつま先から降りたり、かかとから降りたりしてみる。
めちゃくちゃダンスシューズと相性がよくなってるんだけど?
私は急いで席に戻ると
「お兄ちゃんっ…!」
「何?」
兄がすぐに立ち上がり、私の手を引いて周りを見渡す。
「そうじゃないの。フロアが変わってるの!ダンススクールとかスタジオの素材に」
「ああ…羅依の改装はそこでしたか。あそこに来てるかもしれませんよ?」
兄は私にそう言うと、フロアを見下ろせる窓を指差した。
「羅依にはかなわない…」
来るかどうか分からないようなことを言っていたけれど、絶対に来てる。
「Kingですからね」
そう応える兄と並んで、キラキラと照明が反射している上の窓を見上げる。
「私は羅依の想いに応えたいと思う」
「はい」
「で…お兄ちゃん。応えるだけでは当たり前で、普通で、つまんないよね?私の中にこういう場で‘つまんない’ってあり得ないの」
私が上を見たままそう言うと、兄の視線が私の横顔に刺さる。
「そうですね、才花。羅依が‘かなわない’と才花に膝まづくくらいでいいんじゃないかと…親父も言いそうです」
兄の声までが笑っているので隣を見ると
「何、何?一樹が笑ってんの?サイサイ、こんばんは」
緒方先生が兄の首に腕を絡めた。
「こんばんは。いきなりですけど…先生、フロアで復習したいと思いませんか?」
何のことかと私と兄の顔を見比べた先生に
「才花が羅依を打ち負かしに行く…その前座に付き合ってやってください」
と腕を払いのけながら兄が言う。
「おおぉぉ、オーケー。そういうことな。サイサイ、Kingほどでないけどここの界隈で僕もちょっと有名人だけどいい?」
「どうせ目立つので同じことです」
「いいね。行くよ」
緒方先生は私の左手首を持ってフロアに向かう。
私は上の窓に向かって右手を大きく振りながら先生に続く。
そして中央に陣取ると……右手の人差し指を立て真っ直ぐ窓を指した。
コメント
2件
才花の姿が目に浮かぶ‼️‼️
打ち負かしにいこぜーっ٩(๑•o•๑)وオーッ‼ かなわない羅依を膝まづかせよう‼️ 私も一緒に踊る!すでに潜入してるから!!!お兄ちゃんも行こっ🪩