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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。私達は『カロリン諸島』中心部で夜を過ごしました。幸い危惧されていた魔物の襲撃は無く、夜明けと共に一番大きな島への上陸を開始しました。
「名前はあるんですか?」
「無いみたいだよ?」
「では、暫定的に『アイン島』と命名しましょう」
一番大きな島だから『アイン島』。安直な気がしますが、暫定なので区別できればそれで良しとします。
私、ルイ、ベル、アスカ、更に海賊衆から十人が『アイン島』に上陸。エレノアさん達は万が一に備えて船で待機して貰います。
こにく『アイン島』ですが、周囲を真っ白な砂浜で囲まれていて、中心部に小高い山が有り、残りは全部森に覆われた島です。断崖絶壁が無いので上陸する場所を自由に選べました。
「お嬢。森の中に何があるか分からないからな、用心しろよ?」
「未知との遭遇ならば大歓迎です」
今からワクワクしますね!もちろん、危険は冒さないことが大前提ですけど。
「先ずは固まって動くぞ。俺が先頭をいく。ルイとアスカはお嬢から離れるな。お前らは前後をカバーしてくれ」
ベルが指示を飛ばします。
「分かった」
「……ん」
「「「へいっ!!」」」
今回上陸した海賊衆の十人は特に手練れをエレノアさん自身が選びました。本来ならリンデマンさんに指揮を任せるところですが、不測の事態に備えてリンデマンさんは上陸地点に待機しています。
「んじゃ、暗くなる前に終わらせるぞ」
私達はベルを先頭に森へと侵入しました。背の高い木々が生い茂り、日光が遮られて朝だと言うのに森の中は薄暗い。それに、獣の遠吠えも聞こえてきますし、足元が見えないくらい草が群生していますね。
「足元に注意しろ!前の奴と同じ場所を歩くようにすればいい!」
山刀片手に草木を払いながらベルが進みます。薄暗くて草木が生い茂っているため視界は最悪と言えます。
「アスカ、なにか分かりますか?」
「……こっちに何かある」
私達はアスカの勘を頼りに森を進みます。万が一に備えて、感覚を開けて木に目印の布を巻き付けます。見知らぬ土地で迷子なんて洒落にならないので。
「薄暗いなぁ。それにこんな場所じゃ槍を振り回すのも無理だな」
「ではこれを使ってください、ルイ」
私は幼い頃シスターに渡されたナイフをルイに手渡します。どんな強力な武器が手に入っても、これだけは手離さずに身に付けています。
「良いのかよ?シャーリィ」
「未知の土地で貴方が戦えないリスクを冒したくはありませんからね」
「分かった、ちゃんと返すからな」
それで良いのです。私には魔法剣がありますからね。ある程度の事には対応できる自信があります。
……多分。
しばらく森の中を進むと、泉が見えてきました。周りには木も少なく、休息するにはうってつけの場所です。
「待ってろ」
先にベルだけが泉に近寄り、周囲を警戒します。その間に海賊衆十人も広く展開して警戒を強めました。
しばらくするとベルが合図を送ってきたので、私達は遠慮無く泉に進出、綺麗な水で満たされた泉に臨時のキャンプを設営することになりました。
「本音を言えば、水場の近くは避けたいんだけどな。水を飲みに来る獣何かと鉢合わせになる危険がある」
「それでもベルはキャンプの設営を許可しましたね?」
「他に良さげな場所がなかったからな。森の中は論外だ。視界が悪すぎて、護るのが難しいからな」
確かに、他に選択肢が無いのは困りものですね。
「海賊衆の半分はここで周辺を警戒してくれ。この近くに何かあるんだろう?」
「少なくともアスカはなにかを感じ取っています。私個人としても、強い魔力を感じていますが」
アスカが落ち着かずにそわそわしてるし、高い魔力を感じているのも事実。『飛空船』には『飛空石』を維持するために大量の魔石を積み込んでいるのだとか。だとすればこの魔力も説明が付きます。
「先ずは現場を調べて、すぐに引き返す。本格的な調査は、その後だ。良いな?お嬢」
「墜落している『飛空船』を見付けても、私達だけで調査はしない。分かっています」
その場合は直ぐに森を突き抜けて砂浜との一直線の道を作り、待機している皆を総動員して調査する予定です。『飛空船』があれば、状態次第ではたくさんの荷物を運ぶことになりますからね。
私達はキャンプに海賊衆五人を残して更に奥地へと進みます。再び薄暗く視界の悪い森の中を進むこと二十分。ようやく目的のものを見付けることができました。
「こりゃ、酷いな」
「けど、形は残ってるな。中身は案外無事じゃねぇか?」
そこには木々を押し倒すようにして墜落した『飛空船』が横たわっていました。全体的に羽の付いた船とでも言えるような作りをしていますね。
「どうだ?お嬢」
「あの残骸から強い魔力を感じます。まだ魔石が残されている証拠かと」
「俺達が最初の発見者だな。よし、場所は特定した。先ずはこの場所に印を付けて引き上げるぞ」
そう、私達はあくまでも先遣隊。先ずはここから海までの最短ルートを確保しなければいけません。
目印を用意して引き上げようとした瞬間、アスカが落ち着き無く周囲を見渡し始めました。
「アスカ、どうしました?」
「……匂いが増えた」
「っ!?警戒態勢!直ぐにここを離れるぞ!」
その言葉を聞いた瞬間ベルが号令を掛ける。何かが迫っているのを誰もが感じることができました。
しかし、一歩だけ遅かった。突如として周囲から無数の矢が飛来して私達を襲いました。
「走れ走れ走れぇ!」
私達は飛び交う矢を避けながらキャンプへ向けて全力で走り出しました。飛来する矢は多いけれど、狙いは悪く当たる様子がない。一安心だと思っていたのが間違いでした。
この矢は牽制の意味合いが強かったのです。つまり私達はある場所へ向けて追い立てられていたんです。そして、その事に気づいた時、全ては遅すぎたのでした。
ガタンッッッ!!と大きな音が足元から響き、それと同時に身体を浮遊感が襲いました。まさかと思い下を見たら、今まであった地面が消失して深い穴が広がっています。
落とし穴っ!そう気付いた瞬間頭に強い衝撃が走って私の意識が急速に遠退いていくのを感じました。
「シャーリィーっっ!!」
愛する男の子の叫び声が聞こえたのを最後に、私は意識を手離すのでした。ああ、本当に世界は意地悪でクソッタレ……です……。