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それは偶然か、必然か。
日中、琴波の体は、そこにいると認識していないとすぐに分からなくなってしまう。久世朔哉の幼馴染であり、許嫁の琴波。幼少期から共に過ごしてきた、久世の二歳下の愛すべき存在。
この日も、手を繋いで歩いている。
琴波と静かに談笑し、誰にも琴波の存在が見えていなくても、知られていなくても、久世は共にいられれば満足だった。ふわりと笑う彼女のことが、自分だけでも見えていれば、今はそれでいい。彼女に普通の暮らしをあげられるのはまだ先でも、大丈夫だと言い聞かせる。
緑道のある公園を抜けた頃だった。突然のブレーキ音に足を止める。
ふと、音の方を見ると車が電柱にぶつかっているのが分かった。車は衝撃からか炎上していて、けれどすぐに車の上から雨が降り注ぐ。集中豪雨のような激しい雨が、車のところだけ。
その直後、道路が大きく陥没し、久世と琴波の目の前の道路が突然、崖に変わった。
それだけではない。一瞬にして木が炭へと変わり、青空から落雷が発生し、周囲にいた人が灰になる。空には蜃気楼でもう一つの街の姿が浮かび、花々が枯れ、青空に星が瞬く。
久世と琴波の思考はすでに止まっていた。何もかもが、二人の許容を大きく超える。
「なんだ、これは……」
目の前で起こっていることの処理ができない。ただ、翻弄されているだけで一歩も動けない。
異常事態だと分かっているのに、逃げようと思うことすらできなかった。
久世の目に、それが映ったのはそんな時。一人の少年が泣いている。その頭上には、重厚な本が開かれていて、翠色に輝いている。
眩いほどの光に辺り一面が包まれ―――久世と琴波は、ただ道端に立っていた。
公園から出てすぐの場所。そこに佇み、ただ、道路の先を見ている。
「……朔哉?」
隣の琴波が見上げてくる。
「今の……」
横断歩道の向こうにいる親子も、その傍に停車している車の運転手も、不思議そうな顔をしている。それは、久世と琴波も同じだった
「……琴波。今の、憶えているか?」
「……朔哉も、ですか?」
「よくは思い出せない……しかし、いくつもの異能が使われていた、はずだ。けれど今は、何もない……予知? 違うな。今、この場所だった。思い出そうとすると、何かに阻まれる。記憶系の異能……?」
「ええ。わたくしも同じように感じます。それに、ぼんやりとですが、複数人が使っていたようには思えませんでした」
「同感だ。二つ以上、複数の異能を使える人物が、いる。それも……子ども」
「少なくとも、大人ではありませんでしたね」
「……捜そう。その人物を。複数の異能を持っていれば、琴波の体が消えないようにすることができるかもしれない」
「……朔哉……」
「心配せずとも良い。命の霊薬については、一旦、捨て置く。今度はこちらが本命だ。琴波はおまじないを使って、成就の種を芽吹かせてくれ」
「わかりましたわ。複数の異能を持つお方、わたくしの方でも調べてみますわね」
「ああ。絶対に叶えよう。二人の、願いを」
繋いだ手に、自然と力がこもった。