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がたん、ごとん、と微かな振動。
なんとなく潮の香りがする。
「ゆらちゃーん。もうちょっとで着くから、起きてー」
瑞基に声をかけられて目を開ける。
やたらと瑞基の声が近いと思ったら、肩に寄りかかっていたようだ。
「起きたか。水飲む?」
「んー……」
差し出されたペットボトルを受け取って、何口か飲む。ここでようやく、現状を把握しようと思えるほど覚醒した。
「どこだ、ここ」
電車なのはわかる。内装が、どこかで見たことがあるような気がする。
「もうすぐ俺のばあちゃん家の最寄駅、ってとこ」
だから潮の香りがするのか。
「そうか、最寄駅…って、なんで?」
「暁斗さんが出張で数日いないって、雪江さん情報が入ったので、由良をその隙に連れ出しました」
夏休みも終盤に近付き、課題や予習も済ませてしまった由良は、一晩中読書したり多少だらけた生活に突入してしまっていた。
そこに、早朝五時に迎えに来て、寝ぼけている由良を操るようにして 電車に乗せて来たらしい。
「旅行、行くって言ったんだっけ?俺」
「言ってた言ってた。ちゃんと、うんって」
若干目が泳いだのが気にはなるが、ちゃんと荷造りした自分の鞄があったので、覚えていないが同意して準備してきたのだろう、と思考停止することにした。
なんだか、瑞基に物凄く密着して寝てしまっていたようだ。手まで繋いでいる。
由良の手を握っている瑞基は、普段から垂れ気味の目尻が更に下がって、鼻歌でも歌いだしそうにご機嫌だ。
「人前だから……あんまり、くっつくのは…」
「何で?もう海水浴シーズンも終わったから、このボックス席の周り、誰もいないよ」
その時、到着のアナウンスが流れた。
電車から降りた瞬間、眩しさと気温差を感じた。目が眩んでしゃがみ込む。
「…ごめん、ちょっと座らせて」
「駅からばあちゃん家まで、少し歩くからなー…電話して迎えを頼んでみる。ここ座ってて」
登り下りのホームしかない無人駅。
その真ん中にあるベンチに座る。すぐ眼前に海岸が広がっていた。
(…久し振りだ)
崖と崖の間にある浜辺。夏でも荒い波。
懐かしい匂いを吸い込んだら、だいぶ体調が良くなってきた。
「呼ぼうと思ったら、もうお迎え来てたわー。行こ、由良」
スマホ片手に瑞基が戻って来て、ベンチに置いていた二人分の荷物を担いだ。
「瑞基、自分のは持つから」
「いいって。本格的に具合悪くなったら困るだろー?」
もう、ずんずん先に行ってしまう。逆に、どうしてそんなに周囲の目を気にせずいられるのか。
「澪ねえちゃーん、お待たせー」
駅を出てすぐの、ロータリーとも呼べないようなささやかなタクシー乗り場に、RV車が一台停まっていた。
瑞基が手を振ると、車中から女性が降りてきた。背が高く、日焼けが良く似合っている。
「……白っ!」
対峙して、自己紹介の前の第一声がそれだった。
「大丈夫?陽射しで溶けたりしない?」
このワードセンス、間違いなく瑞基との血の繋がりがある人だ。
「ねえちゃん…前のめり過ぎて、由良が引いてるから。そんぐらいにして」
何故だか頬をツンツンされたところで、瑞基が割って入った。
「あ、ごめん。避暑地の美少女すぎてうっかり。わたし、瑞基の従姉妹の澪です」
「篠川由良です…」
「ゆらちゃん、よろしく。友達連れて来るって聞いて、てっきり真っ黒に日焼けしたガタイのいい水泳部が現れると思ってた。案内のプラン練り直しだわー」
可愛い可愛いと、澪は由良の頭を撫で回す。
「どうする?とりあえず私の職場案内しようか」
「や、朝早かったから、ひとまず家で休ませて」
「おっけー」
後部座席に乗り込むと、瑞基は澪が触れた頬や髪を、バックミラーには映らない死角で触り続けた。
(瑞基……身内にまで嫉妬するのか…)
コメント
1件
第10話、読了しました。電車内での瑞基くんの密着っぷりと、従姉妹の澪さんにまで嫉妬する様子に「ああ、瑞基くんは由良さんに本当に夢中なんだな」って微笑ましくなりましたね。無人駅から見える海岸の描写も良かったです。旅行先という非日常が、二人の距離を縮めるスパイスになってる。次が気になります。