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続き
冷静で頼れる存在だったはずのりうらは、最も長く苦しみ続けた。
自分を責め続けた結果、外に出られなくなり、家のカーテンを閉め切ったまま過ごす。
音楽機材に触れることもなくなり、ギターの弦は錆びて切れたまま放置された。
最後に残ったのは、机の上に置かれた「もし僕がもっと強かったら」という書きかけのメモだけ。
りうらの部屋から笑い声が聞こえることは二度となかった。
優しい心は、やがて彼自身を殺していった。
「ごめん」を繰り返し書いたノートの山に囲まれて暮らす。
ある日、そのノートのページがすべて破かれ、黒いインクで「助けられなかった僕は、生きている意味がない」とだけ残される。
ファンの前に姿を見せることもなく、SNSも止まったまま。
彼の優しさは、自分を責め続ける刃へと変わった。
明るさで仲間を照らしていたが、ついに限界を迎えた。
笑えなくなった自分を鏡で見るたびに「誰やねん、こんな顔」と吐き捨てる。
冗談を言おうとしても声が出ず、喉を押さえてうずくまる。
ファンに向けて最後に投稿した言葉はただひとつ、「笑えんくてごめんな」。
彼の声は、もう二度と響かなかった。
兄貴分だったあにきは、酒に溺れ、孤独に沈んでいった。
夜ごと缶を並べ、泥酔して涙を流し続ける。
「守るって言ったのに、なんもできへんかったやんけ」と独り言が止まらない。
ある晩、空になった缶だけを残して部屋から消え、その行方を知る者はいなかった。
強かった背中は、闇に溶けるように消えていった。
皮肉屋でありながら仲間を思っていた初兎は、最後まで「歌うこと」に縋った。
録音機に「ないこ」と吹き込み続け、それを何度も再生しては涙を流す。
しかしステージでは一音も出せず、立ち尽くすだけ。
最後に残したのは、割れたマイクと「僕は、もう歌えない」という一行のメモ。
彼の声は、完全に途絶えた。
こうして、リーダーを失ったグループは完全に崩壊した。
5人の心はそれぞれの闇に呑まれ、二度と交わることはなかった。
残されたのは、ファンの記憶と、どこかでまだ響いているかもしれないないこの歌声だけ。
静かな夜。
かつて歌声が響いた街は、今はただ風の音だけを抱いている。
リーダーを失い、仲間を失い、夢を失った五つの心。
それでも世界は止まらず、季節は巡り、春は桜を咲かせてしまう。
誰もいないステージに、照明がひとつ灯る。
そこに立つ者はいないはずなのに、
微かに――本当に微かに――「歌」が聴こえた気がした。
それは幻か、残された者の願いか。
あるいは、空のどこかから差し込む、最後の光だったのかもしれない。
そしてその声は、やがて夜風に溶け、
静寂の中へと消えていった。