「……そうだな、それじゃあ一時間程時間を潰しててくれ」
「はい。悠真、プレイルームで遊ぼっか」
「うん!」
「クマさんはママが持っててあげるからね」
「わかった!」
受付を済ませ、中へと入って行く真彩と悠真を見届けた理仁と翔太郎は少し離れ、プレイルームの出入り口が見えるギリギリの位置で人があまり通らない端へと移動するなり本題に入った。
「実は、八旗組の事なんですが、例の男が来週若頭に上がるようです」
「若頭に……そうか。前々からそう言った話があるとは聞いていたが、アイツが選ばれたか。だから態度も大きくなったいたんだな」
「それと、先程朔太郎からメッセージが送られて来まして、その男から真彩さん宛に手紙が……」
「わざわざ屋敷に手紙を寄越して来るとは、随分舐められたモンだな。真彩には悪いが、先に確認する必要がある。手紙は俺が預かると朔に伝えておけ」
「分かりました」
「この分だと、あの男は手段を選ばず悠真や真彩を狙ってくるかもしれねぇ。今まで以上に二人から目を離さないように組員全員に周知も頼んでおけ」
「はい」
「さてと、これからどうするかな」
この前理仁が牽制したにも関わらず惇也は真彩や悠真の事を諦めてはいないようで、二人を危険に晒さない為にはどうする事が一番良いか、頭を悩ませていた。
「理仁さん、今日も遅いのかな?」
八旗組が大きく動き出した頃、連日のように帰りが遅くなっていた理仁を心配した真彩は、悠真と一緒に遊んでいた朔太郎に問い掛けた。
「そうっスね……最近色々と忙しいみたいなんで、暫くは続くみたいっス」
「そうなんだ。大変なんだね」
組織絡みの事なので朔太郎も詳しく説明する事が出来ず、かなり濁しつつ答えるものの、事態はあまり芳しく無いようだった。
その日の深夜、
「あ、理仁さん、お帰りなさい」
「何だ、まだ起きてたのか?」
「悠真が怖い夢を見たらしくて、起こされちゃって……」
「そうか。それは大変だったな」
「いえ。それより、理仁さんこそこんな時間まで……」
「問題ない。こんな事はよくある事だ」
「お食事はきちんとされていますか?」
「まぁ、軽くだがな」
「もし今お腹が空いているようでしたら、雑炊でも作りましょうか?」
「いや、大丈夫だ。それよりもまだ起きるまで時間があるんだから少し寝ておくといい」
「そうしたいんですけど、何だか目が冴えてしまって……」
時刻は午前三時と少し経った頃、中途半端に目覚めて悠真を寝かしつけていた真彩は目が冴えてしまったようで眠れそうにないと言う。
「……そうか、それなら少し外へ出るか?」
「え?」
「寒いが、風に当たると気分も変わるだろう? まだ暗いから星も出ているし、気分転換には良いと思うぞ」
「そうですね、そうします」
「それじゃあ縁側に行くか。着替えてくるからお前も羽織る物を持ってくるといい」
「分かりました」
各々準備をする為一旦別れ、十分程が経った頃、お茶とおにぎりを乗せたトレーを持った真彩が理仁の待つ縁側へとやって来た。
「すみません、お待たせしました。今お茶を淹れますね」
「ああ、済まない」
「あと、もし良かったら、おにぎりもどうぞ」
「わざわざ握って来たのか?」
「これならすぐに出来ますから。寧ろこれくらいしか準備出来なくて……」
「悪いな。それじゃあ頂くとしよう」
真彩の気遣いに感謝しながら、おにぎりを手にした理仁はそのままかぶりついた。
「美味い」
「すみません、大した具材がなくて……」
「いや、いい。握り飯はシンプルなのが一番だ」
おにぎりの中身は一つが梅干し、もう一つがたらこという至ってシンプルな物ではあったけれど、絶妙な塩加減の白米と相性が良く、理仁はあっという間に平らげてしまった。
「足りなかったですか?」
「いや、大丈夫だ。こんな時間だからな、これくらいで十分だ。ご馳走様」
「いえ、お粗末様です」
温かいお茶のお陰で夜風は冷たいけれど、それがまた心地良いのか二人は他愛のない会話を交わしながら星空を眺めていた。
「……朔太郎くんから聞いたんですけど、お仕事がお忙しいの、暫く続くんですよね?」
「ああ、そうだな。暫くは続くと思う」
「……あの、もしかして、惇也のいる、八旗組関連でしょうか?」
誰に聞いた訳では無いけれど、真彩はうすうす気付いていたようで回りくどい言い回しをせずに理仁に問うと、隠しておく事でもないと判断したのか真彩の問い掛けに答え始めた。
「ああ、そうだ。あの男、檜垣は先日八旗組の若頭になった。実を言うとな、少し前に檜垣からお前宛に手紙も届いていた。悪いとは思ったが、危険が及ぶかもしれねぇから俺が確認の為に開けた。手紙には、この前話した事の確認と、改めてお前や真彩を引き取りたい旨が書いてあった。お前宛の筈なんだが、俺が読む事を見越している書き方だった」
「そう……だったんですね」
「俺としては、正直お前と檜垣を直接会わせる様な真似はしたくねぇが、真彩、お前自身はどうだ? もう一度会って話がしたいか?」
「……正直、会いたくない思いの方が強いです……けど、もう一度会って、きちんと話をするべきなのかも、とは思っています。私と悠真が彼の元へ行く気は一ミリもないと、はっきり伝える為にも……」
あの日、惇也と再会した真彩は心の中で色々と思う事があった。惇也が悠真の父親である事は紛れもない事実で、この先も一緒になる事は無いと納得して貰わなければ、やはり鬼龍組に迷惑がかかるのではないかという事だ。
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