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私が持参した涼菓をお茶うけに、少しばかり頭を休めた後、改めて今後の方針について、話し合いが再開された。
「いいよねー葛餅。 涼しげだねー」
「お前まだ食ってんの? ちっとは遠慮しろや」
先ほど史さんが提示した通り、神使の異変となると、やはりその大元に伺いを立てるのが得策なのだろう。
五穀豊穣を司る稲荷神。
そういえば
「白砂神社にも、お稲荷さんって祀られてるんですよね?」
「そだよ? 小さな御社だけどね」
「そのヒトに訊ねることって、出来ないんですか?」
「あー……、それがね?」
彼女が言うには、稲荷神の神性は自分たちとは少しだけ異なっており、面会するには煩雑な手続きが要るとの事だった。
「手続きっていうのは?」
「んー、まずは身分証明書を出してー、氏子かどうか分かる書類を作ってー」
要約すると、まず必要なのは身分証明書。 それに神社が指定する申込用紙に、人間であれば戸籍謄本や事情説明書などを提示しなければならないという。
そこだけ聞くと、然程難易度は高くないように思えるが。
「あとは、お米を一俵」
「お米を一俵?」
「そだよー? あ、買ったヤツじゃダメだよ? 自分で育てたの限定ね」
たしかに、それはあまり現実的じゃない。
そういった事情も含めて、“元締”という代表者が必要なのか。
言わば、間口の広い相談カウンターのようなものだろう。
「けどさ、その元締? そのヒトは簡単に会ってくれんの?」
幸介が尤もなことを言った。
見れば、リビングと中庭を仕切るガラス戸の一枚を半開きにして、ちょうど縁側のように配されたウッドテラスへと、両足を投げ出す格好で寛いでいる。
姿勢はあれだけど、言ってることは正しい。
“相談窓口”とは、あくまで私の所感であって、真実その通りとは限らない。
「会えるよ? 割りと気軽に……。 気軽に……? うん、会うには会えますね」
これに対し、ほのっちの方から明言があった。
何やら引っかかる所はあるものの、会うぶんには問題ないと。
「その元締さんとは、何処に行けば会えるの?」
「あっち」
私が問うと、今度は史さんが即答した。
「あっち?」
「おう、この世とあの世の狭境目だ」
思わぬ語義が出たが、これを深堀りして話の腰を折るのも悪い。
もっとも気になる点を、一つだけ持ち出すことにする。
「そこって、気軽に行けるものなの?」
「行って帰ってくる分にゃ問題ねぇわな」
それもそうか。 誰も寄り付かないような所に、わざわざ窓口を設置しても意味が無い。
「うん……?」
“じゃあ、現世に居ればいいんじゃないの?”と言いかけて、危うくと口を噤んだ。
彼らがそのように計らうからには、それ相応の理由があるのだろう。
人間に色々な事情があるように、神さまにだって色々ある。
ただ、彼らの世界は人間社会のように複雑怪奇でない分、その事情とやらも、よりストレートな形で降り掛かってくるのかも知れない。
もしくは、人間社会との軋轢だ。
“商売繁盛”
史さんが唱えた何とも俗っぽく、実に人間くさい言葉を、ふと思い返さずには居られなかった。