TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

ともあれ、先方せんぽうの居所は判明した。


あとは、接触の方法。 どのようにして、その境界へ向かうかについてだが、どうやら入り口があるらしい。


「この辺だと、高羽神社だな」


「え……? あそこって、そんな感じなの?」


高羽神社と言えば、市内で最も大きな規模を誇るお宮だ。


在所は旧国道に面しており、日夜にちや車通りの絶えない、どちらかと言えば騒がしい場所柄である。


異界へ通じる門をようするには、いささか日当たりが良すぎる印象をいなめない。


「なんだよ? もっとこう、あれか? 暗い場所でも想像したか? 昼間でも薄暗いような」


「うん。 まさに」


「そんなもん漫画の中だけよ。 そりゃ、土地によっちゃそういうトコもあるかも知んねえが」


彼が言うと、非常に含蓄がんちくがあるように聞こえるのは、その“らしからぬ”性格によるところか。


いや、今さら神さまの気性きしょうに触れるのも無粋ぶすいだろう。


「高羽神社か………」


「つっても、いつでも通れるってわけじゃねえぞ?」


「一日に二度、開いてるタイミングがあるんですよ」


「タイミングって言うと、どういう? 時間?」


「うん。 午前と午後の八時台」


時計を見る。 午後六時をすこし過ぎた辺りだ。


あと二時間もしない内に、あの見慣れた神社の境内に、異界へ通じる門が出現すると。


わりいけど、頼んでいいか?」


「ん、いいよ。 おとうはどうするん?」


「俺は後で春見大社に行ってみる」


普段の私なら、何を置いても飛びつきそうな話題であるが、今回ばかりはさすがに。


この世とあの世の狭間はざま


きちんと行って帰れる仕組になっている様子とは言え、やはり人の身で訪れるべきではないような気がする。


過日、“人影”の一件を通じて、私は改めて友人たちのそばに居ると決めた。


けれど、決して自分の立場を忘れたわけじゃない。


有事に際して、身を守るすべを持たない以上、考えなしに突っ込んで行くほど向こう見ずではないし、そんな度胸もない。


それが異界ともなれば尚更なおさらだ。


「あとは、ちぃ坊。 お前も行ってみるか?」


「は………?」


「気になんだろ? 顔に書いてらぁ」


思いがけず指名を受け、たちまち頭の中が混乱した。


彼のほうから、こんな提案をするのは珍しい。 と言うより、普通ならあり得ない。


完全に慮外りょがいの発言だ。


『引き返したほうがいいんじゃねえか?』


人間わたしたちをおもんぱかってくれた過日の言葉も、いまだ記憶に新しい。


「時間的に……、オメーらは外で食った方がいいな」


「了解。 どこかでご飯食べて、そのまんま行く感じね?」


「ちょっと? あの………」


言いよどむ内に、段取りのほうはトントン拍子びょうしで進んでゆく。


その最中さなか、幼なじみがおずおずと申し出た。


「千妃ちゃんが行くなら私たちも」


「や、悪い。 こっち手伝ってくんねぇか?」


「あ、そっか。アイスクリーム……。 けどなぁ……」


「まぁ、穂葉ちゃん一緒なら大丈夫だろ。 あんまし無茶すんなよ?」


そう、そちらが本来の用向きだ。


今日はそのつもりで店を訪れた。


まかり間違っても、“ちょっと異界あっち行ってこいや”なんて言われるすじの話じゃない。


このとき初めて、史さんの精神構造が、私たちとは大幅に異なっていることを痛感した。


「うんうんー! これでとりあえず一安心だねー。 じゃあ、私はそろそろおいとまー──」


「おいコラ帰んな。オメーも手伝え」


「えー………?」


「アイス、どれでも好きなモン持ってっていいから」


本当に、このヒトはよく分からない。


もっとも、この人選について、取り立てて異を唱えようとしない辺り、こちらも他所よそさまの事をどうこう言えた義理ではなく。


私は私の本心すら、よくわかっていなかったのかも知れない。

loading

この作品はいかがでしたか?

4

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚