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第6話 〚放送室、二人きり〛
放送委員の初仕事は、思ったより早くやってきた。
「今日の昼放送、白雪さんと橘くんね」
担任の言葉に、
澪の心臓がきゅっと鳴る。
――放送室。
――二人きり。
(……大丈夫、大丈夫)
何度も自分に言い聞かせる。
昼休み。
澪は原稿を胸に抱え、
校舎の一角にある放送室へ向かった。
ドアを開けると、
機械の音と、少しひんやりした空気。
「お疲れ」
すでに中には、橘海翔がいた。
「……お疲れさまです」
澪は、そっと頭を下げる。
放送室は、想像より狭かった。
机とマイク。
並んで座ると、自然と距離が近くなる。
(……近い)
それだけで、緊張する。
「原稿、俺読む?」
海翔が聞く。
「……いえ、私が」
澪は、少しだけ勇気を出した。
放送委員に入った意味。
それは――声を出すこと。
「分かった」
海翔は、何も言わずに頷く。
「ゆっくりでいいから」
その言葉に、澪は救われる。
マイクの前に座る。
スイッチの赤いランプが点く。
(……来る)
澪は、分かっていた。
予知が、動く。
――声が震える未来。
――途中で詰まる未来。
――誰かが笑う未来。
全部、見えた。
(……それでも)
澪は、原稿を見つめる。
「……本日の、お昼の放送を、始めます」
声は、小さい。
でも、消えなかった。
一文。
また一文。
途中で、少し噛んだ。
でも、止まらなかった。
放送室の中で、
海翔は何も言わず、ただ聞いていた。
それが、何より心強い。
――最後の一文。
澪は、深く息を吸った。
「……以上、白雪澪と」
一瞬、言葉に詰まる。
そのとき。
海翔が、自然に続けた。
「橘海翔でした」
スイッチが切れる。
赤いランプが消えた瞬間、
澪の力が抜けた。
「……終わった」
小さく呟く。
「うん」
海翔が笑う。
「すごく良かった」
「……本当ですか?」
「本当」
迷いのない声。
その瞬間。
――未来が、見えた。
放送室。
同じ距離。
同じ空気。
でも、そこにあったのは、
“怖さ”じゃなくて――安心。
(……予知が、優しい)
不思議だった。
「白雪さん」
海翔が、少し真剣な声で言う。
「無理しなくていいから」
「でも……一人でやろうとしなくていい」
澪は、ゆっくり頷いた。
「……はい」
その返事は、
予知じゃなく、
自分の意思だった。
放送室の窓から、
昼の光が差し込む。
二人の影が、
静かに重なっていた。
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